第6話貧乏学生
マンションに走って帰ってくるといつも使っているリュックサックから教材を抜き取って、財布と本、山吹からの手紙を突っ込んですぐさま部屋を出た。
とにかくどうにかしてここから成田まで向かわなければならない。とりあえず何をするにも金が必要だ。僕はすぐさま最寄りのコンビニに走った。貯金がどれほど残っていたかなんて覚えていないが、少なくとも5万円はあったはずだ。コンビニに入店してすぐATMにキャッシュカードを挿入して操作する。貯金残高は6万円。全額下ろしてしまうとこの後の生活にかかわってしまう。せめて3万円は残さなければならないだろう。となると3万円しか下せない。財布の4千円と合わせても間違いなく往復するには金が足りない。
タイムリミットは1日しかないというのに一体どうすればよいというのだ……。
こういう時のために、バイトをしておけばよかった。家からの仕送りに頼っていた僕にこれ以上金は用意できない。金を親にせがんでも、翌月の振り込みがなくなるだけで結局生活に支障が出てくる。
「本当にどうすればいいのだ……」
コンビニを出た僕は途方に暮れて川沿いの道をとぼとぼ歩いて、もやもやとしたこの感情をどうすべきかわからない。既に冷静に考えるだけの頭の処理能力は残っていない。
「矢田さん!どうしたんですか?」
心配そうに話しかけてきた声は天音さんの声だ。顔を上げると顔もひどく心配そうである。
「ああ、天音さんか……」
「一体どうしたというのです?何かあったのですか?」
「ああ、実は……」
「その感じちょっと長くなりそうですね。寒いですし、私の家近いですから、暖かい部屋の中で話しましょう」
僕は天音さんに言われるがまま、連れられて天音さんの家に上がらせてもらった。
「さて、じゃあ話してください。いったい何があったのか」
僕は先ほどの千里さんの話を伝え、そのあとに山吹の手紙を手渡した。じっくりと手紙を読み込んで天音さんはふむふむと頷いてありがとうございますと言い手紙を返してくれた。
「成程、矢田さんは山吹さんの元へ行きたいけれどお金が足りないと、そう言ったところでしょうか?」
「その通り。どうしても行きたい」
「そうですか。そこまで言われるのであれば、私が金銭面はフォローしましょう。そうすれば問題ないでしょう?」
「迷惑ではないか?」
「大丈夫ですよ。お金に関してはそんなに困っていませんし、時間がないのでしょう?迷惑じゃあないかとかそんなことは考えなくていいのです。何か負い目に感じるのならまた後で私に何か返してくれればいいですから」
「返すって……何を?」
「何を返すかは矢田さんが決めてください。私ががっかりしないようなものであればいいのです」
天音さんのがっかりしないもの。ますますわからない。いったい何をもって返せと言いたいのだ?まあ、これはすべて終わってから考えよう。
「わかった。それじゃあすまない天音さん。お金を借りさせてくれ」
「はい。とりあえず手持ちの10万円を貸しましょう」
とりあえずで財布から出てくるような額の金ではない!あまりに自然に出すものだから一瞬何も感じなかったが冷静に考えてみればおかしい。何なのだ。天音さんは常にこんな大金を持ち歩いているとでもいうのか?
「おや?足りませんでした?ではあと……」
「いや!十分!十分足りる!これだけあれば全然往復できるから!」
「そうですか?」
「ああ。本当に」
「それなら良いです。それで、矢田さん。一体どうやって成田まで?ここからだと結構時間かかりますよ?」
「電車を乗り継いで隣の県に出て、そこからは深夜バスで行く」
「そうですか。それじゃあもう行くんですね」
時刻は午後1時。スマートフォンで調べてみると深夜バスは午後6時発だと分かった。
「まあそうだな。少しくらい余裕をもっていかないと間に合わなかったらそれこそ問題だ」
「矢田さん。頑張ってくださいね」
「ああ。お金ありがとう。ではまた」
「ええ、また」
僕は天音さんに別れを告げると、駅へ向けて歩いた。
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