第3話喫茶店にて

 千里さんと共にすぐ近くの喫茶店に入った。店内は静かで休日ではあったがあまり客はいない。

 若い女性店員が注文を聞きに来たので、コーヒーを二杯頼んだ。


「……それにしても、随分とタイミングの良い時にあのアパートまで来てくれたわ。こっちから行く手間が省けた」


「そうですか。それは良かったです」


 口ぶりからして僕の住むマンション知っているようだ。あのひねくれ者から聞いたのだろう。

 すぐに本題に入ってもいいが、話をさえぎられるのは御免だ。僕は話を進めずにコーヒーが運ばれてくるのを待った。

 2分ほど黙って待っているとコーヒーを店員が運んできた。受け取って一礼すると、笑顔で彼女は厨房へと戻っていった。それを確認すると、会話を再開した。


「それで、どういう話しなのです?」


「そうね……。大学の処分とこの先についてはまた後に話す。だからまずは貴方に修一郎の本当の姿を知ってもらおうと思ってね」


 アイツの本当の姿?いつも見せているあのひねくれた発想で周囲を困らせているあの姿が本来のアイツではないということなのか。甚だ信じられないことだが、家族として何十年と共に過ごしてきた千里さんだ。まだ出会って1年半ほどしか関わっていない僕より当然奴については理解しているだろう。

 

「まあ、一応聞かせてもらいますよ……」


「あまり興味が無さそうね?」


「変人であることに変わりはないのでしょう?」


「それは第三者からの視点でしかないのよ。本当の修一郎は変人じゃない。ただ他人に自身を理解されないだけなの」


「どういうことです?」


「説明するには修一郎の過去を知ってもらう必要があるわ。長い話になるけどいいかしら?」


 あのひねくれ者の過去か。そういえばこうして大学生活を送っていく中で一度としてあいつは自分の過去の話をしてきたことは無かった。いつだったか、過去は捨てたと言っていたような気がする。僕自身ひねくれ者の過去をこちらから聞きたいなどと思たことは一度としてなかった。


「はい。問題ありません」


 それじゃあと一呼吸おいてから、千里さんは話し始めた。

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