我ら、最後の冬

第1話  矢田の冬

 冬というのは居心地のいい季節だと思う。部屋に籠って作業するのに、これほど向いている季節はない。

 夏の暑さというものは電化製品でも使わないとどうにもならないが、冬の寒さは重ね着をすれば案外どうとでもなるところがある。何より汗をかいて体中がべたべたになるということがない。全く素晴らしい。いっそずっと冬であってほしいくらいだ。

 しかし、本当に執筆作業がよく進む。これはひねくれ者があの日以来現れなくなったことも大いにある。

 2か月ほど前、学祭で自作ジェットパックの試運転を決行したことが原因で重い処分を下され、この二か月間ろくに姿を見せなくなった。

 別に気にすることではない。僕はアイツに散々面倒をかけられ、何時間と僕のプライベートタイムを奪い去っていったのだ。そんな奴がいなくなったのだから心の中は歓喜に沸き立っている。

 僕はこういう日常を待ちわびていた。これから本当に楽しいキャンパスライフが僕を待っているはずだ。

 奴を気にしなくていいのだから街に繰り出して買い物でもしようか?趣味の散歩と喫茶店巡りでもしようか?いやいや、一人映画に行くというのも悪くないだろう。やりたいことは盛りだくさんだ。

 その筈なのだ。しかし、なんなのだろう。このむず痒い気分は。

 頭にもモヤのかかったような感覚もある。

 わからない。ストレスフリーの快適なキャンパスライフを手にしたというのに、こんな事では残りの1年楽しめないではないか!


「……休みの日だからと言って、こうして部屋の中に閉じこもっているのがいけないのかもしれないな。いくら雪が降っていて寒いといっても外に出ないのは体に悪いか」


 僕は椅子から立ち上がって、エアコンと照明を切る。

 玄関前でコートとマフラーを着込んで外に出た。

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