第14話 屋上演説
僕は放心状態に陥っていた。
1時間30分の演奏が終わったとともに今まで感じたことの無い満足感、充足感を感じ、それを嚙み締めているといつの間にかそうなっていた。確か放心している場合ではないほど重大な何かがあったような気がするが……。
いや、重要というより至極くだらなく、本来関りたくもないことを無理やりにでも止めねばならなかったような気がする。はてさて、いったいなんであったか……。
「矢田さんしっかりしてください!大変なんです!」
意識をはっきりとさせる澄んで通る声が耳に響いた。
「天音さん……。いったいどうしたのだい?随分と焦っているようだけれど」
「山吹さんが、山吹さんが……あのその……と、とりあえず正面広場まで一緒に来てください!」
何?山吹だと……そうだそうであった!あのひねくれ者が何かしでかすつもりだったっではないか!
僕は椅子からさっと立ち上がり天音さんについて走った。
正面広場につくと先ほどまで講堂に居た大勢の人が屋上を見上げて指をさしたり、携帯で写真を撮ったりしていた!当然その先にはあの男が腕を組んで堂々と立っている。
「あいつ、いったい何しでかすつもりだ!?」
「どうやら役者はそろったようだな!!矢田氏!君が来るのを待っていた!!今から私の実験の成果を御覧に入れる!」
「そんな危なっかしいところで演説こいてるんじゃあない!とっととそこから降りろ!どうせくだらないことするつもりなんだろうが!!」
「矢田氏よ!そんなことを言えるのも今の内だ!既に準備は整っている!!」
「ふざけたことを言うんじゃない!山吹!矢田の言う通りそこから降りてこい!」
大学内で恐れられている二大教員、堺、金城先生が怒号を浴びせかけた。しかし山吹はどこ吹く風。全く忠告を聞く気がない。
「どうするんです?このままだと山吹さん本当に大変なことしでかしませんか?」
「ああ、屋上からはみ出した土台のようなものから見るに間違いなくあそこから飛ぶのは間違いない」
正直なことを言えばこのまま無視してしまいたい。だがこのままほおっておけばあいつが死ぬかもしれない。
「だあ!くっそ!いっつもいっつも面倒ったらありゃしない!天音さん!もしも事態に備えるよう伝えてくれ!僕はあいつを止めに行く!」
「わかりました。お任せください!」
「山吹ぃ!!そこで待ってろ!ぶん殴ってでも止めてやる!!」
「きたまえ!いくら矢田氏といえど今回の私を止めることはできはしないのだ!!」
「言ってろ!」
「矢田さんお気をつけて!」
「ああ!」
僕は勢いよく駆け出した。
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