第9話 姉、襲来
天音さんのがお手洗いに行ってしまったので僕は律義に食堂で待っていることにした。俺自身カレーを食べ終えていなかったというのもあるが天音さんに少々フォロー入れておかなければならないように感じた。これもひねくれ者のせいであるが致し方無い。
カレーを食べていると食堂に誰か入ってきた。茶髪のポニーテールが特徴的な女性である。身長は160はあるだろうか?女性にしては大きい。
女性は食堂内をきょろきょろと見渡しながら次第に僕の方へと近づいてきた。
「もしもし、そこの眼鏡少年?」
女性は僕の向かいに座って話しかけてきた。顔立ちはかなり整っているがをよく見るとどことなく奴に似ているように感じる。それに、喋り方と言葉のチョイスもどことなく似通っている。
「えっと、もしかして山吹修一郎のご家族で?」
「あらま、わかった?」
「ええ、なんとなくですが」
「君は修一郎の友達ってところかな?」
「切ろうにも切れない腐れ縁というやつです。というか、貴女の名前は何というのです?」
「私は千里。山吹千里。修一郎の姉で今はライターとして働いている22歳だよ」
「僕は矢田健司。この大学の二年生です」
「何学部なの?」
「文学部です」
「そうか。それじゃあ修一郎の言ってることとかさっぱりなんじゃない?ごめんねあんな弟で」
……何故姉弟でこうも違うのか。あいつだけ突然変異起こしたのではないかと思えるほどにまともな人間だ。それに頭のよさそうな雰囲気を感じる。
「ええ、まったくその通りで。ところで、千里さん。何やら人探しをしているように見えましたが、弟を探しているのですか?」
「うん?まあそうだね。この前あいつと偶然会った時があったんだけどとっととこの場から逃れていっていう感じがプンプンしてたからさ、あんまり大学での生活のこと聞けなかったからこうして秘密裏に学祭に潜入したわけさ。いまだに見つからないんだけどさ!はっはははは」
成程、先ほどさっさ出て行ったのは姉の気配を感じたというのもあるな。ならば、このまま千里さんに校内をうろついておいてもらった方がいい。上手いこと行けば今日の実験発表会なるものを破綻させることができるやもしれない。
「いやー惜しかったですね。さっきまでここに居たのですが、飯食い終わったらどこかに行ってしまいましたよ。まだそう遠いところにはいないと思いますよ?」
「あっそうなの?ようしとっ捕まえてやろう!ありがとうね矢田君」
そいうと千里さんは食堂から出ていった。これは僕としてはいい流れだ。ひねくれ者よ!姉から逃げ回ると良い!
「しかしそんなことより天音さん、遅いな。……少し様子でも見に行ってみるか」
今冷静に考えてみると恐らくお手洗いに行くというのは嘘であろう。僕は心当たりのある場所を片っ端から調べてみることにした。僕に何ができるかはわからないが、言葉をかけてあげるべきだろう。
僕はカレーを食べ終えると返却棚に戻して食堂から出た。
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