第8話 昼食

 結局いつものように食堂で食事をとる。全く学祭らしくない日常的な食事に何がある?しかも目の前にひねくれ者がいるというのも癪である。そして全く同じカレーを頼んでしまったというのも非常に癪である。


「しかしながら今日は暑いな。実に暑い。随分と汗をかいてしまった」


「そうだな。……ああ、お前に一つ聞くことがあったのだった。いったい何をしでかすつもりだ?」


「なに、ただ私の研究結果を発表するだけのことだ。きっと見たものすべてが拍手喝采、賞賛の嵐であろう。君にも感動を与えてやろうではないか」


 カレーを食ったスプーンで僕の方に向けてくる。自信満々な顔もムカつくがそれより、どこでその研究発表会を決行するつもりなのだろうか?まさかとは思うがメインステージでやるつもりではあるまいな?そんなことをすれば学祭の進行に支障をきたしてしまう。


「うん?おいおい矢田氏よ心配無用だ!さすがの私もメインステージを乗っ取ろうなどというやぼなことは考えぬ」


「おい、そんなに僕の考えていることは顔に出やすいのか?」


「さっき言った通り君は顔が口より物を言うのだよ」


『キィーン……お知らせします!14時より講堂にて天音交響楽団によるスペシャルなステージが行われます!皆様!是非とも講堂にお越しください!』


 学祭実行委員、宮嶋先輩の放送が校内に響き渡った。男性にしては声が高くよく響くのだが声量が大きすぎてところどころ音が飛んでいる。


「そんなに大声出さなくても十分音声拾うのにわざわざ大声出さなくても良いのですけれど、何でですかね?」


 天音さんが耳をふさいでいた手を離して苦い顔で言った。


「宮嶋先輩って吹奏楽やってたってどこかで聞いた覚えがある。そういう人なら天音交響楽団が来たってだけでもテンション上がっているのだろう」


「上がるもんですかね……」


 天音さんの場合は家庭環境のことがあってテンションが下がっているのだろう。


「……。ふむ、私は音楽など興味ないからなぁ。どれ、矢田氏よ。君と天音さんで鑑賞してきてはどうだね?」


「いい。僕も天音さんも店番があるのだ」


「人も来ないのに店番は必要かね?」


「……。来るかもしれないだろ」


 実際、客など来ないだろう。しかしながら天音さんは嫌がっているのだ。これは僕がそばにいて天音ファンクラブの襲来に備えるべきである。そして天文学的確率で来るであろう客の対応もしなければいけないのだから講堂に行く時間などないのだ。


「ふむ、まあ良い。今日の私は君にかまっている暇はないのだ。ああ、だが一つ、天音さんよ。向き合うことを恐れるべきではないぞ」


 山吹はそういうと皿を返却棚に戻してどこかに歩き去っていった。


「……。なんだあいつらしくない」


「すみません矢田さん。お手洗いに行ってきます」


 天音さんは困惑した顔で駆け出して行った。山吹の言葉に思うところがあったのだろう。あいつは天音家の事情は全く知らないはずだが……。


「くえない奴」


 やっぱりひねくれ者のことは理解に苦しむ。

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