第6話小悪魔
昼休みになったというのになかなか交代が来てくれない。いい加減お腹が減ってきたから近くの屋台で焼きそばでも買ってきたいのだが、もしや正面玄関の大騒ぎの渦中にいるのだろうか?
「1人店番で残っておけばご飯買いに行けるよな。よし、なぁ天音さん?俺がご飯買ってくるからここで店番をしておくというのはどうだろう?」
「そうですね……。うん?」
何やら天音さんはスマートフォンを取り出してメッセージを読んでいるようだ。先輩から交代が遅れるとか、そういう話だろうか?
「……成る程」
何故だろう?納得したと思ったら天音さんの顔から小悪魔的な笑みが浮かんできている。一体どんなメッセージが誰から送られてきたというのだ?
「天音さん、昼ご飯のことだが……」
「ああ大丈夫ですよ。先輩たちが買ってきてくれるそうです。私の爺さまのせいで大騒ぎになってすぐには交代に来れないそうなので代わりにご飯買ってくるからもう少し店番よろしくだそうです。良かったですねー」
……怪しい。どう考えても怪しい。天音さんがあんな笑みを交代員がお詫びに昼ごはんを買ってくるという理由で出すわけがない。
「天音さんよ。それは本当かい?」
僕は怪しまれないように自然に、嬉しそうに聞き返してみた。
「本当ですよ!いっぱい買ってきてくださるみたいですよ?晩ご飯にも困らないかもしれませんね!」
「わかったわかった。成る程……天音さんよ」
「なにがですか?」
「嘘だな」
「なにが嘘なんですかね?私嘘なんてつきませんよ」
「いーや!もう騙されはしないぞ!前焼肉食ってる時にその笑顔に騙されたんだ!今回もまたあのひねくれ者の差し金だろう!」
「あーバレました?」
天音さんは笑顔を崩すことなくしかも笑いながら開き直っている。
「やっぱりか!そうとなればすぐさまここから離れなければならないじゃないか!天音さんはここに居て店番をしていてくれ。僕は今からご飯を買ってくる!」
「そうですかー。山吹さんは売店の方から来ると思いますけど?」
「あの人混みに紛れれば何とかなる」
僕は駆け出そうとしたが、突然ポケットから何かを抜き取られた。振り返ると天音さんが僕の財布を持っている。
「なにをする!」
「いやーだって私がなにを食べたいかも聞かずに行こうとするものですから。苦手な食べ物とか、アレルギーとかあったらどうするんですか?」
確かにそれは確認しておかなくてはならない事項であるが、そのために財布を抜くのはいかがなものか。
「わかった。では何がいい?僕は急ぎたいのだ」
「そうですねー。マスカットスムージーとカツサンドで。どちらも料理研究サークルのテントですよ」
「よしわかった。ならすぐさま僕の財布を返してくれ」
「いいですけど、お金足ります?」
何故そんな事を言うのだ。もしや結構高いのだろうか?いや、これは単に時間を稼ごうとしているだけだそうに違いない。
「一万円あれば足りるだろう?いいから返してくれ」
「ええ、わかりました。もう返して大丈夫ですから」
返して大丈夫、と言うことは……
「いやはや流石天音さんだ。私の想定通りに矢田氏を止めてくれた。全く君ってやつはすぐ逃げようとするのだから困ったものだ」
「くそったれがぁーーー!!」
僕は生まれてから一番大きな叫びを上げた。
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