第5話 準備中のひねくれ者
正午を知らせるチャイムが鳴り響き、必死に準備に勤しんでいるこの私の耳を直撃した。
あまりの大音量に私は憤りを覚えたが、いやしかし、こんな事で憤っていては成功するものも成功しなくなってしまう。すぐに怒りを抑えられるあたり私は素晴らしく冷静沈着で天才的である。
しかし、このままでは1時間後にまたチャイムが鳴り響く事になるだろう。ちょうど空腹感を覚えていたところである。
立ち上がって下を見てみるとなぜか人だかりができている。周りの音すら聞こえないほど集中していた私は全く知らなかったが、どうやら随分と前から騒がしかったらしい事はその人だかりからおおよそ想像できる。
まあそんな者たちもすぐに私の研究成果を見て皆注目し、拍手喝采の大騒ぎ!成功した時は歓喜の声を上げるであろうことは既にわかりきっている。
「まあいい、さて、少しばかり矢田氏に接触しに行くとしようか。彼には特等席で見て貰わねばならないからな……」
私は準備途中の機材を一旦物陰に隠して錆びて開きにくくなっている扉をこじ開けて階段を降った。
階段を降りると何処を見ても人が居なくなっていた。どうやらどいつもこいつも広場の騒ぎの渦中にいるらしい。
まあそんな中に矢田氏がいないのは屋上から見てもわかっている。あれほど平凡でわかりやすい男ならばあのアリの如き小ささでもわかるものなのだ。
やはり矢田氏は私が認める凡人であるだけあってミーハーどもとは一線を画している。
「ふむ、まあ邪魔がいないのは都合がいい。正面玄関ではなく一階の窓から出るとしよう。あんな人混みの中をかき分けて行くのは非効率的でしかない。矢田氏が逃げる可能性もある。だがまて、あの男のことだからすぐに食事をとりに行く可能性すらある。ならば手を打っておくとしよう」
私はスマホを取り出すと天音さんにメッセージを送った。
間違いなくこれで矢田氏の動きは止められる。さて、あとはゆっくり文芸サークルのテントへと行けばいいだけだ。
「さて、仕込みはしっかりしなければな。ふふふふふふ!」
天音さんには上手いこと演技をして貰わなければならないが彼女であれば何の問題もないであろう。
私はスマホをポケットにしまうとゆっくりと階段を降りた。
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