第8話 凹む話は置いて……おきたい
絵笠先輩から頼まれたという売店の売り子の話は忘れて別の話にしよう。
「さてなんの話をしようか?できれば僕の凹まない話がいいのだが」
「気分転換できるような話ですか。……そうですね、それじゃあ一つ聞きたいことがあるんですがいいですか?」
聞きたいこと?なんだというのだ。
「まあいいが……」
僕はダージリンティーの入ったカップをとって口をつけた。
「矢田さんは色恋沙汰ってないのですか?」
「っぶぷ……突然何だ!!」
突然の言葉に思いっきり吹き出した。勿論零したりはしていないが顔にはダージリンティーがかかってしまった。
「いや、だって盛り上がるじゃないですか。色恋の話って」
「それはごく一般的な人間に対してであって僕には当てはまらない!」
「あーいないんですね」
「悪かったな!」
「何年いないんです?」
「生まれてこの方できた事はない!」
こんな事は本当に言いたくはなかったのだ!僕のような本を読み漁る地味で目立たないメガネ人間なんぞを好きになる物好きはいないだろう!
「あらら、それはそれは残念ですね」
「……おい、僕は凹まないような話にしようといったはずだが!」
「いやーまさかいないとは思いませんでしたので」
「うぐっ……」
何故こんなに敗北感を味わっているのだ僕は。
「なら、そういう天音さんはどうなんだ?相当お声がかかるんじゃないのか?」
「確かに結構な人に告白されましたけど、全部断ってますね」
「という事は……」
「私も彼氏いない歴=年齢です」
「なんだよ、天音さんも人のことを言えないじゃないか」
「そうですねー。でも私そんなことを気にしたことないんですよ。彼氏いないのがなんですか!というか、ろくでもない人しかやってこないんですよ」
「あー噂の天音ファンクラブ会員か」
「やめて欲しいんですけどね。とても迷惑ですから」
やはりファンクラブの存在を知っていたのか。まあ本人が気づかないように活動できるわけもないか。
「やはりね。ところで天音さんよ?好きな人とかいるのかい?」
「……実は、いますよ?」
「誰?」
天音さんの好きな人?一体どんな男だ?とても気になる。別に僕がどうとかそういう事は期待していない。
「それは……言えないですよ。恥ずかしいです」
「そうかい。その人に告白されら可能性はないのかい?」
「あればいいですけど、鈍感なんで中々厳しいかなぁと。最悪私から言うしかないですね」
「ほう、そうか」
「本当に鈍感なんですよねー」
「何故二回も言う?」
「さぁーて何故でしょ?」
天音さんは何かをもみ消すようにティーカップを口に運んだ。
僕はベットのそばに置いてある目覚まし時計を見た。
時刻は15時を過ぎた頃だ。
「あ、そうだ!矢田さん、今からちょっと付き合ってください」
「ん?何だ」
「コレを買いに行くんです!」
天音さんが取り出したチラシを僕の眼前に突き出した。
「なになに?ラ・カメニュール新作デザート。カップル限定……つまり?」
「カップル限定ですから、男性がいないと買えないわけですよ。勿論矢田さんにもたべさせてあげますから、ね?」
手を合わせて首をかしげ可愛らしくアピールする。そんなことされたら行くだろう!
「仕方がない。行こうじゃないか」
「ありがとうございます!」
かくして何故か僕は天音さんとカップルのふりをして街を歩くことになった。
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