第6話天音プレゼンツ!天音さん宅

 天音さん宅は大型ショッピングモールから20分程歩いた場所にあった。

 お洒落な外観のいかにも家賃の高そうな学生マンションで彼女の家がお金持ちなのだということを想像させる。


「私の部屋はここの5階なんです」


「はぁー凄いな。俺のマンションとは大違いだ」


「うむ、私の住む佐間荘なんぞとは比べものにならん程綺麗だな。たが綺麗だからいいわけではない。部屋が大きく、実験ができるような場所でなければな!」


 相変わらず馬鹿げたことを言っている。


「それで、山吹さんは来ますか?」


「う、うん?私か?いやうーん……きょ、今日のところはやめておこう!あーそうだ、まだ実験の続きがあるるのだっだ!それではさらば!」


 そう言って山吹は帰っていった……。

 まさかこうも簡単にあの男が帰るとは思ってもいなかった。何故天音さんは自分の家に招待したら山吹は帰ると思ったのだろうか?


「……いやー帰りましたね。それじゃ行きましょうか?」


「あ、ああ。本当に良いのかい?」


「構いませんよ。どうせ一人暮らしですし。もしや山吹さん同様女性の部屋に入るのは抵抗あるのですか?」


「いやそういうわけじゃないが、どこで山吹が女性の部屋に入らないことを?僕も知らないぞそんなこと」


「あー風の噂で聞いたんですよ。誰が言ったのか知らないですけど、多分昔から山吹さんの事を知っている人だと思います」


 まあ僕たちが通う大学には山吹と同じ高校出身者は4名いたから知っている人がいても不思議じゃない。その人から噂が流れているのなら天音さんの耳に届く可能性はあるか。


「そうなのか。僕の耳には届いてなかったな」


「とりあえず入りましょうか」


「そうだな」


 僕は天音さんの家にお邪魔した。




 天音さんの部屋は掃除が行き届いていて整理整頓もしっかりしてある。いかにも女性の部屋という感じだ。山吹の部屋とは真逆だ。


「ワンルームですけど風呂トイレ別で収納も多いんです。私好みの部屋なのですぐここにしたんですけど少しお店が遠いので買い物が面倒なんですよね」


「やはり本は多いな。何冊あるんだ?」


「ここにあるのはだいたい200冊くらいです。実家に150冊置いてきてます。まあ漫画もあるんで小説だけだと120冊くらいです」


「僕より小説持ってるじゃないか」


「それって矢田さんが図書館よく利用するからですよ」


 そう言われればそうかもしれない。自分の家で本を読むことはあんまりない。大概図書館やカフェで読むからな。


「あー何か飲みます?」


「お茶でいいよ」


「そうですか。じゃあ少し準備しますから座って待っててください」


 僕は部屋中央のローテーブルの側に座った。

 しかし、女性の部屋に入るなんていつぶりだろうか?少し緊張してくる。


「うん?」


 ローテーブルの上に置かれている紙が気になって手に取ると何やら書いてある。

 時系列のようなものだろうか?

 よく見るとそれが小説のプロットであることがわかる。

 流石にしっかりとしている。僕はここまでしっかりとしたプロットを作ってから小説を書いたことはない。僕もこれくらいする必要があるのかもしれない。


「お待たせしました。ダージリンティーでーす……って、矢田さん?」


 おっとうっかり集中してしまった。


「あーすまない。ちょっとこれを見ていてね」


「それですか、没プロットですからいくらでも見てください」


「えっ?没なの?」


「ええ。面白みに欠けるので没にしたんです。矢田さんはそういうことないですか?」


「……ないなぁ」


「そうなんですね。まあ矢田さんってプロットを書かなくてもストーリー構成しっかりしてますから問題ないしれませんね」


 僕は天音さんの出してくれたダージリンティーを飲んだ。なんだかいい香りがして落ち着く感じがする。


「さて、それじゃ何しましょうか?」


「適当に喋らないか?」


「いいですよ」


 僕たちは当てもない話をし始めた。

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