矢田健司③凹む男、喜ぶ乙女、腹立たしい男
第1話凹む男、喜ぶ乙女、腹立たしい男
今僕は酷く落ち込んでいる。
理由は簡単、僕の書いたSF小説はコンクールであえなく落選となったのである。
やっぱりミステリ小説を書くべきだったのでは?慣れないSF小説は何本か描いてみて、それからコンクール応募にすべきだったのでは?色々と頭が巡っている。
自信はあった。SF小説は何百冊と読みあさり、僕が小説を書くのに必要な情報も図書館の本から得た。
それでも落ちたのだ。
やっぱりあのひねくれ者にネタを求めた僕が間違っていたのだ!
僕は行きつけの喫茶店『カフェソラシド』にてコーヒーを飲みながら遠くを見てボーとしていた。
「完全に放心状態じゃないですか」
僕の前に座って優雅に紅茶を飲んでいる天音さんはそう言った。
天音さんは僕とは違い、女子高生の友情を書いた青春小説を書いて優秀賞を獲得したのだ。
僕には絶対に書けないであろうジャンルで、ものの見事に優秀賞を獲得だ。
山吹の奴の元に向かいアホ話を聞いていたり、友達と遊んでいた様なのに……全く才能とは恐ろしい。
「そりゃあ……ねえ……」
「良い出来だったじゃないですか。山吹さんの話も取り入れていて、ぶっ飛んだ世界観でした!」
「ぶっ飛びすぎて落ちたと思うんだよ?僕は」
「うーん……でも追いつけないほどの世界観じゃなかったですよ?」
「ギリギリだろう?はぁーやっぱり奴のネタは取り入れなければよかったんだぁーー!」
「そんな事はないですよ。切り替えて次回頑張りましょう?SF書いたのだって今回初めてじゃないですか?ミステリでは佳作とか特別賞取ってるじゃないですか。大丈夫ですよ!矢田さんの才能があれば!」
すごい励ましてくれているが、それを素直に受け取れないのが僕という人間だ。
彼女のことだ。嘘は言っていないというのはわかっているのだけれど、これは僕の性分であるから仕方がないのかもしれない。
「とりあえず、あのひねくれ者にだけは見つからないようにしたいな。聞かれたら面倒くさいし……」
「何のことかね?」
うおっと声を上げて驚いてしまった!
「何故ここにいる?山吹!」
「ふふふふふ!私の読みは間違っていなかったな!」
僕は天音さんの方を睨む。
なんせ前科があるからな。
「まさか君が呼んだわけじゃないよな?天音さん!」
「今回は無関係ですよ?なのであんまり睨まないでくださいよ」
「そう、全ては私の読み通りなのだよ」
「お前の読みなど当たらなくて良いのだ!」
「そう言うな。励ましに来てやったのだぞ?落選者よ」
山吹は僕の隣に座ってきた。
近くの店員を捕まえてコーヒーを注文した。
「殴るぞ?」
「恐ろしい事を言うな君は。私は文句ではなく、励ましに来ているのだぞ?感謝したまえよ」
「誰が感謝するか!……っておい、文句ってなんだ!?」
「そりゃ文句もあるに決まっているだろう?私がネタを提供してやったのにもかかわらず落選などと言う不名誉な結果に終わったのだぞ?」
「落ちたのは貴様のせいだと思うんだがな!」
「なに?私のせいだと?私は提供してやったのだぞ?私のせいではない!活かせなかった矢田氏の力量不足であるに決まっている」
「ふざけるな!この野郎」
僕は拳を握りこみ、殴りかかろうかと思ったところで、
「はいはい、その辺にしましょう。他のお客様にご迷惑ですから。ね?」
天音さんが仲介に入り、僕は握った拳をしまい、ちっ、と舌打ちをして僕と山吹はそっぽを向いた。
そんな時に店員がコーヒーを持ってきて静かにカップを置くとそそくさと退散した。
「矢田氏が怒ってしまうから……」
「誰のせいだと思ってるんだ?」
僕は冷めかけたコーヒーを一気に飲み干して、少しだけ頭を冷やした。
「……何処か行きますか?気分転換に」
「そうだな」
「私も行くぞ?」
「お前は来るな」
「と言っても山吹さんの事ですから、突き返しても付いてくると思いますよ?」
「よくわかっているではないか天音さんよ」
「仕方ない……そのかわり、ここの支払い山吹な」
「なぬ!?」
「よーし、そんじゃ行くか」
「おい待てよ矢田氏!コーヒーをまだ飲んでおらん!」
「一気飲みすればいいじゃないか」
「お、おおおう……矢田氏も言うようになったではないか」
「よーし行こうか天音さん」
「はい」
行く場所は天音さんに任せよう。
僕は頭の中を整理しながら店を出た。
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