第5話 姉・山吹千里
中央公園から歩くこと20分で複合施設に到着した。
文無しの私はコーヒー一杯も飲めないが本なら立ち読みできる。
なに?本を読むだけなら図書館に行けだと?
わざわざ遠い場所まで行くなどという無駄な労力をさきたくないのだよ。
……さて、まず私は科学関連の本がある場所を物色することにした。
私の脳内にはある程度の知識は詰め込んであるが、完全ではない。完全にするにはインプットするしかないのだ。
定説を覆す為にはまず、今定説となっている定義を理解する事が不可欠だ。
そこから私が研究しなければならない問題が明らかになる!研究はいくらあっても問題ないのだ!
私は一番分厚い科学書を棚から取り出すと本を開いた。
一通り読み終えると本を元に戻した。
結局知ってる事がほとんどで面白くはなかった。
(全くこんなものか……もっと面白いものはないのか?)
私は広い店内を歩き回り、面白そうなものを探し続けたが、小説など読むのも面倒くさいし、漫画は読む気にもならないのだ。
私に必要なのは物語ではない。知識だ。それを忘れてはならない。
「あれ?修一郎?」
……な、何故こんなところにいるのだ?
「あ、姉上……」
我が姉、山吹千里は22歳でライターとして働いている。顔立ちはかなり整っており、茶色く染めた髪をポニーテールにしている。
また、私と違った方向にひねくれており、学もある。
まあ、どう見ても私のほうが天才的で天災的なのだが……。
襷掛けにしている大きな鞄の中には仕事道具が詰まっているのだろう。
「あんたなんでこんなところにいるの?」
「それはこちらの台詞だ。私はただの暇つぶしをしているだけに過ぎぬ」
「間変わらずの喋り方だね〜」
「そういう姉上は何用で?ここは実家からかなりの距離があるかと……」
「仕事のついでに寄っただけだよ」
そう言って姉上は鞄から自前の一眼レフを取り出して見せてきた。
「そうであるか。では、その雑誌は?見たところコーヒーの雑誌のようですが?」
「うん?これは今から買う。私の夢は喫茶店を経営する事だからね。今はその為の勉強をしているのさ。しばらくは今のまま雑誌のライターとして働くつもりだけど」
そういえば前々からそんな事を言っていた。
しかし、この姉上のひねくれた美的センスではまともな店になりそうもないということで親からは心配されているのだが、その事については完全スルーを決め込んでいのだ。
「そうですか。それはそれは、せいぜい努力すると良いでしょう」
「あんたもね。ちゃんと授業出なさいよ!」
「研究に支障が出ない程度でな」
「あーもう疲れる奴!」
「大いに結構!……それでは姉上、ここらで御機嫌よう!父上と母上によろしく」
「はいはい、相変わらずだったって言っとくわ」
姉上は背を向けると手を振ってレジの方へと行ってしまった。
「……まさか姉上に会う事になろうとは思わなかった。これは早く帰れという天啓かもしれぬ」
私はそそくさと店を出ると近くのバス停でバスを拾って帰る事にした。
私の小旅行は嫌な感じで終わりを告げた。
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