第4話空を飛ぶ夢
「さて、ではまずもって聞くが、矢田氏はどのような小説を書くつもりでいるのだね?」
山吹はいきなり質問してきた。
初っ端から持論を展開するかと思ったのだが……。
いや、まあ小説のネタをよこせと言っているのだからその小説に使えそうな話にしなければならないと思って聞いてきているのだろう。
意外と気が利いたことをする。
「どのような小説を書くか?そうはいわれてもまだSF小説を書くということしかまだ決めていない」
「ふむふむ。つまり明確にどういう物語を書くのかを決めていないわけだな?つまり何を話しても問題はないわけだ」
「そういうことになるな」
山吹はニヤッと不敵な笑みを浮かべた。
「ふふふ!ならばとっておきの話をしてやる!」
こいつの言うとっておきというのは聞いていて阿呆らしくなってくるような話ばかりだ。故に今までろくに聞いたことがない。
「さて、矢田氏よ。これを見たまえ!」
と言って山吹が取り出したのは見たこともない変な機械……というよりただのガラクタだ。正直何に使う物なのかさっぱりわからない。
いやこいつのやることは大概意味不明なのでわからなくて当然といえば当然なのか。
「……いや、ただのガラクタだろう?」
「ガラクタではない!これはジェットパックだ!」
……いや、いやいやいや!!
どこがだ!?確かに背負えるようになっているし、タンクみたいなものも付いているが、どこからどう見たってジェットパックには見えない。
どこからどう見たってガラクタ以外には見えない!
「人間とは常に空を飛ぶことを夢見てきたのだ。故に気球が作られ、飛行船が作られ、そして飛行機が作られた!だがな、それではダメなのだ!各々が自由に使ってとびまわれるようにしなければ人類の悲願が叶ったとは言えぬのだ!つまり、このジェットパックこそが、人類の夢の結晶なのだ!」
「ふざけんな!ジェットパックならもっとちゃんとしたものが開発されているし、そこまでしてからは飛びたくない!」
「そうかそうか、だがな矢田氏!これならばどうだ!」
山吹はジェットパックと言い張るガラクタをしまうと、また別の物を取り出した。
取り出したものはただのスニーカーにしか見えないのだが……。
「何だかのスニーカー?」
「ふふふ!矢田氏がジェットパックにケチをつけるのはお見通しだ!故に!こういうものも考えておいたのだ!これこそ、スニーカー型重量操作装置だ!まあ、まだ重力操作のシステムに関しては研究が必要だがな!」
空を飛ぶという関連でまさか重量操作装置を出してくるとは……。
そこまでわかって話をしていたのだから僕のことをよくわかっている。
一年も付き合っているとここまで自分の行動を読まれるようになってしまうのか……。
しかもSF小説に出せそうなネタである。
「悔しいが使える……」
「ふふふ!そうだろうそうだろう!もちろんそこまでわかっていたのだ!はっはっは!」
「……しかしまるでひねくれていないぞ」
「この研究で何回私が足を挫いたか知りたくはないかね?」
「……いや、いい」
もうなんだかやったであろうことが頭の中に浮かんできた。
恐らく何度も検証実験ということで高いところから飛び降りるのを繰り返したのだろう……。
アホというかバカというか…….、何と言えばいいのだろう?
だが、そこまで検証実験するほどの考えがあるというのは素直にすごいと思うが、考えはひねくれていてこちらが理解することはできないだろう。
「ちなみにだが、どんなことしたんだ?」
「うん?地球から受ける遠心力をなくせばいいのではと考えてカタパルトのようなものを使った実験をしたりしたが?」
…….地球の重力を振り切るには第二宇宙速度、つまり秒速約11.2km。まあ、だからやろうとしていることは間違いではないのだろうが、人間の体がそんな速度で動いたら間違いなく死んでしまう。
「はぁ。馬鹿だなお前」
「馬鹿?それは違うぞ矢田氏!価値ある失敗は成功への近道なのだ。故に、この失敗で私は答えに近づいた!」
「あーそうかいそうかい。んじゃ次の話してくれ」
聞いていられなくなり話を無理やり変えさせることにした。
使えそうな話はもらえるがもうちょいマシなエピソードの話が聞きたいものだ。
とりあえず期待しておこう。気休め程度にだがな。
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