第3話地獄の始まり
佐間荘208号室、山吹の部屋へと戻ってきた。
あいも変わらず部屋の中はビニールパイプや金づち、なにやらまとめてある薄汚れた大学ノートが散乱しており全く清潔感がない。
というより、この男に清潔感という言葉があるのかどうか甚だ疑問だ。
「いやーさっきまで話で聞いていてある程度想像していたんですけど、それ以上に散乱してますね」
「仕方があるまい。これも我が研究のためなのだ」
何故腕組みして堂々とそんな事が言えるのだ?全く誇らしくもないし、仕方なくない!やろうと思えばいくらでも綺麗に出来る筈だ。
「なにが仕方がないだ。本当に偉大な研究者は研究室を清潔にしておくものだ!」
「そうとも限らんぞ矢田氏。それに、小説にはフィクションというものが必要なのではないかね?」
「……」
確かに僕の書こうとしているSFはフィクションの世界。非現実的な話なのだ。ある程度のリアルは必要かもしれないが、そことうまく溶け合うようにフィクションの世界を作り出さなければならないのだ。
今回ばかりはこのひねくれ者の言う事が正しい。
「さて、なんでも見て、聞いてくるがよい!」
散乱するパイプをうまく避けてどかっと敷き布団の上に胡座をかいた。
「別にお前に何が聞きたいわけじゃあない!ただネタになりそうなものがないか探しにきただけだ!」
「そうか。なら話を聞け!」
「何故そうなるんだ!」
「まあまあ矢田さん。聞いてみませんか?自分の視点とはまた違った人の話を聞くのも小説を書く上では必要ですよ?それに、お願いに来たのは矢田さんからじゃないですか?」
……天音さんの言う通りだ。
「わかったわかった!聞く今回
「ふっふっふっ!では遠慮なく話すぞ!メモの準備をするのだ」
僕は胸ポケットからメモ帳とボールペンを取り出した。
こうして真剣に話を聞こうとしている僕自身がバカらしくなるが、仕方がない。
もうこの状況に関しては仕方がないとしか言えない。
それ以外に表現のしようがない。
「よーし、では始めようではないか!」
さあ、地獄の時間の始まりだ……
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