矢田健司①

第1話 矢田健司の日常

 僕の日常は起きてすぐのストレッチから始まる。

 このストレッチをしないと体の動きが悪いようで気持ちが悪いのだ。なんて、こんなことを言えばあのひねくれ者にとやかく言われそうだがそんなことを気にしてはいられない。

 そもそも奴は大学内で今世紀一のひねくれ者とまで言われる程のひねくれ者だ。

 常識をひっくり返すようなことばかり言ったり、行動している変人なだけあって大学内でも浮いているのだ。


 さて、ストレッチも終わったところで行きつけの喫茶店、カフェソラシドでモーニングでも食べに行くとしよう。

 僕は財布と部屋の鍵、小説を詰め込んだリュックを背負ってカフェソラシドに向かった。



 カフェソラシドは自分の住むマンションから出て右に真っ直ぐ進むこと五分の場所にある行きつけの喫茶店だ。ほぼ毎日朝食はカフェソラシドの日替わりモーニングで済ませている。とにかくこの日替わりモーニングが安くて、量も多いのでしがない大学生には非常に優しい店なのだ。


 カランコロンと懐かしさを感じるベルがドアを開けると同時に店内に響く。

 店員にいつものように「日替わりモーニングをください」と注文していつも座る窓際の席にリュックを置いてから座った。


 リュックから小説を取り出してモーニングが出てくるまでの暇つぶしをすることにする。


 こういう時によくあの男は現れるのだが、今日は来ないらしい。ありがたいことだ。

 朝っぱらからとんでもなくぶっ飛んだ話を聞くのは疲れるから嫌なのだ。


 しばらく本を読んで暇を潰していると、モーニングが運ばれてきた。

 今日のメニューは特大サンドウィッチにサラダ、コンソメスープ、ヨーグルト、コーヒーといつもながらなかなかのボリュームだ。しかも美味しいし、この量で値段は500円である。満足しない客はいないだろう。


 僕は小説を読むのを中断してモーニングを食すことにした。




  朝食を食べ終わると会計を済ませて図書館に向かう。

 僕という人間は暇な時は常に図書館で読書に勤しんでいるのだ。

 図書館はカフェソラシドから出て右、二つ目の信号を右に曲がるとすぐだ。時間としては歩いて10分くらいだ。



 図書館に着くとまず、新刊の置いてあるブースに向かう。気になる本ばかりだが、とりあえず一番気になった『魔の彗星』というSF小説を手に取り、いつも小説を読む場所へと移動して読み始めた。

 あの男が来ないことを祈りながら…。

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