第5話 眠れぬ夜に
そっと開いた扉の隙間から、誰かが顔をのぞかせて、こちらの様子を伺う。
「紺ちゃん。起きてる?」
小声でそう私に呼びかけた声の主は、小町だった。
「起きてるよ。」
そう答えると、小町は私の貸してもらった部屋に入ってきた。
「あ、良かった。いや、良くはないんだけど…さっき眠れないって言ってたから。」
「あぁ、うん。いつものことだから、大丈夫だよ。」
「そう…ごめん。私、完全に説明不足だったよね…。」
「いや、大丈夫。ハナさんにも少しお話聞けたし、ハナさんのお家のひとにも良くしてもらったしね。」
「確かに、ハナさんのお家のひと、優しいよね。」
「うん。」
小町と私の間に沈黙が流れ、少し気まずい空気になる。
そして、小町は決心したように私にこういった。
「ねぇ、紺ちゃんってどこから来たの?」
「どこって…日本?かな。」
「日本…私と同じだね…。突然で申し訳ないんだけど、私たちもう少ししっかり自己紹介しない?」
「えっ、うん。いいけど…」
すると、小町は声を整えるためか、こほん。と咳をして、
「じゃあ、まず私からね。」
と自己紹介を始めた。
「私の名前は
「そうか…って、小町。私より年下だったんだね。」
「そうなの?てっきり同い年だと思ってた!…話し方とか変えたほうが良い?」
「いや、いいよ。そのままで。じゃあ、私も自己紹介するね。」
私は不眠症のせいで記憶に障害が起こり、ここに来る直前の記憶と、ずっと前、それこそ中学生の頃以前の記憶しかない。しかも、その記憶すら所々白い
「私は
「よろしく。…そうか、紺ちゃんも…。」
そう言って小町が手を差し出す。私はそれに自分の手をかさね、握手をする。
何か小声で言っていたような気もするが、気にしないことにした。
「そういえば、気になってたことがあるんだけど…。」
「何?」
「昼間言ってた“あの日”っていつのこと?」
「あぁ、私がここに来た日のことだよ。私が初めてこの集落に来た時、ハナさんが教えてくれたの。『昨日まではカラフルだったのに。』って。」
「あっ、なんかごめん…」
「大丈夫。私自身、あまり気にしないようにしてるから。それに、私、記憶がないの。ここに来る直前の記憶が。だから、本当に何かしちゃったのかもしれないしね。」
さっき小声で言っていたのはこれか…。と思いながら、礼を言う。
「いろいろ教えてくれてありがとう。」
「いいえ、どういたしまして!じゃあ、私は寝るね。おやすみ。」
そう言うと小町は、軽くウェーブがかった髪を揺らして微笑み、部屋を出て行った。
小町は今日初めて会った人のはずなのに、なんだか懐かしいような感じがした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます