第4話 色づく頬は
「ハナさん…⁉︎ほ、頬に、色が!」
「えっ…⁈本当だ。なんで?」
「わかりません…。」
少しの間、それぞれが思考を巡らせたような沈黙が続いた。
”色”という単語だけで伝わったのなら、この世界にも色は存在していたんじゃないだろうか。
私に見えていないだけで、この世界の人々にも、色が見えていたんじゃないだろうか。前みたいに。
…前みたいに?”前”ってなんだ?
それはさておき、気になったことを単刀直入に聞く。
「すみません。ハナさん。この世界って、もともと”色”という概念があったんですか?」
「えぇ、あったわよ。それはもう、毎日がカラフルで、彩りに満ち溢れていたわ。」
「…あの日。まではね。」
先ほどまで傍観しているだけだった小町が口を開き、なにやら意味ありげな言葉を呟く。
「あの日…って?」
「そうね…今日はもう遅いし、休みましょうか。二人とも、泊まっていく?」
私の質問を曖昧にして返さないまま、ハナさんが提案をする。
どう返したらいいかわからず悩んでいると、小町とハナさんが
「はい。お言葉に甘えて!紺ちゃんも泊まらせてもらったら?」
「えぇ、それがいいわよ。紺ちゃん。泊まるところないでしょう?」
というので、大きな波に逆らわない派の私は、おとなしく流されることにした。
今までずっと玄関先で話していたから気づかなかったが、改めて見るとすごい家だ。
光り輝くシャンデリアに高級そうな家具の数々。値段を考えるだけでも身動きが取れなくなる。さすが長老の曽孫。といったところか。まぁ、その家具たちにも色はないわけだが。
私が圧倒されている間に、夕食の準備ができたということなので、いただくことにした。
「紺ちゃん。疲れたでしょう。ここを我が家だと思って、ゆっくりしていってね。」
そう言いながらハナさんが料理を食卓に運ぶ。
漂ってくる香りはとても美味しそうで、彩り豊かに感じられた。
食卓に運ばれてきた料理には当たり前のことながら色がなかったが、それ以外はなんの変哲もない普通…よりはちょっと豪華な夕食だった。
「「「いただきまーす!」」」
みんなで声を合わせて食材への感謝を述べた後は、それぞれが思い思いに食事を口に運ぶ。
あぁ、なんか久しぶりだなぁ。この感じ。
最近はいつも一人で食事をしていたので忘れていた感じ。
でもこのままの勢いだと自分の分の肉まで取られかねないので、しみじみするより先に口に料理を運ぶことにした。
「ふぅ…食べた食べた…」
「食べたねえ…。まさか、シーザーサラダがあんなにおいしいとは…」
小町と二人でそう呟いていると、ハナさんから声がかかった。
「小町ちゃん、紺ちゃん。お風呂が沸いたので、順番に入りますか?」
「ありがとうございます。じゃあ、小町さん。お先にどうぞ。」
「いいの?その様子じゃ、だいぶ疲れてるみたいだけど…」
「いえ、大丈夫です。今日も多分眠れませんから。」
「今日も…?まぁいいや。じゃあお先、失礼するね。」
そう言って、小町は風呂場と思われる方向へ向かって行った。
小町に続いて入浴した後、ハナさんが布団を敷いてくれたというので、その部屋へ向かった。
急に泊めてもらって、お風呂を貸してもらい、ご飯をごちそうになった
うえ、一人部屋まで貸してもらえるなんて、至れり尽くせりだ。
そんなことを思いながら布団に入り、目を閉じる。
案の定。眠れない。
そんな時、扉を叩く音が、私一人きりの部屋に響いた。
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