第3話 もう一人の少女

 少しウエーブのかかった茶髪。

 限りなく白に近いものの、頬は薄紅に染まった肌。

 ビー玉のように透き通った、蒼色の瞳。

 見たこともないぐらい美しいのに、どこか懐かしい。 

 その少女には、色があった。


 少し経ってから、その少女が口を開いた。

 「あ…。ごめん!驚かせちゃったよね。私は小町こまち白銅小町はくどうこまち。よろしくね。」

 淡く色づいた、よく通る声だった。

 「あ、はい。私は…佐伯紺さいきこん、です。よろしくお願いします。」

 突然のことに少し驚きながら、ぎこちなく自己紹介をする。

 「っていうか!貴方、色が!」

 つい小町のペースに乗せられていたが、その少女には色がある。色があったのだ。

 「え?それなら、紺ちゃんにもあるじゃない。ほら。」

 そういって、小町は、手鏡を取り出した。

 「本当だ…」

 そこに映し出されたのは、まだ残ってはいるが、前よりだいぶ薄くなったくま。色こそ小町に似ているものの、ドライアイ気味な蒼い目。そして、ボサボサで寝癖のついた黒い髪だった。

 でも、私にも相変わらず、色はあった。

 「でっ、でも。じゃあ、なんで…」

 「この街はどこもかしこも白いのか、って?」

 まるで私の心を読んだように、小町がそう言う。

 「そう…ですけど、なんで分かったんですか?」

 「それは…。私も、最初この場所に来たとき、同じ疑問が最初に浮かんだからだよ。」

 「なぜここにきたのか。じゃなくて、なぜこの街は白いのか。って?」

 「そう。まぁ、それに関しては集落へ行ったほうがわかるかもね。」

 こんなに人間が暮らしていけそうもないところに、集落。

 呆気あっけにとられた私は、つい驚いた表情をしてしまう。

 「その様子だと、ここに集落があること自体、知らなかったのかな?じゃあ、案内するよ。」

 ついてきて。と小町が言うと、全く知らない人なのに、ついて行きたくなる。

 悪い人ではなさそうなので、そこまで案内してもらうことにした。

 

 「ほら、あそこが集落だよ。」

 そう言って小町が指差した先にあったのは、先ほどまでの建物となんら変わりのない、白い建造物の群れだった。

 「ハナさーん!いますかー?」

 その建物のなかの一つに小町が問いかけると、なかから一人の少女が顔を出した。私たちと違って、色のない、少女が。

 「あら小町ちゃん。いらっしゃい。…あら、その子は?」

 ”ハナさん”と呼ばれたその少女は不思議そうに私の顔を見た。

 「この子はね、さっき散歩をしていた時に出会ったの。とってもピアノが上手なんだ。」

 小町が私のことを紹介してくれたので、続いて私も自己紹介をする。

 「佐伯紺です。よろしくお願いします。えっと…ハナ、さん。」

 ハナさんはあだ名で他に名前がある可能性があるので、曖昧に言っておいたが、かえって不信になったかもしれない。

 「よろしくね。紺ちゃん。私は望月華もちづきはな。みんなからはハナさんってよばれているの。」

 上品な感じで、いかにもお嬢様といった感じの少女だ。

 歳は見る限り私より少し上だろうか。

 それなのに、なぜハナさんには色がないのだろうか。

 私たちと、何が違うのだろうか。

 

 ーそのとき、ハナさんの頬が淡い桃色に染まった。

 まるで、桜のつぼみが花開くときのように。

 

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