第2話 白い街にて

 これは夢だろうか。

 「あー…」

 声を出してみると、なんだかかすれている気がした。

 夢を見るのは久しぶりのことなので、いまいちよくわからない。

 これが、夢なのか−現実なのかさえ。

 そうだ。こんなときは、頬をつねってみると良いと聞いたことがある。

 「痛っ!」

 つい声が出るほど痛かった。ということは…

 夢じゃ、ないのか。


 しかし、これが夢じゃないとなったら私は一体どうすれば良いのだろう?

 とりあえず、先ほどの足音も気になることだし、周囲を散策してみよう。

 ホールのような、白い、ただ広い空間に、私の足音が響く。

 ベッドから向かって正面に大きな扉があるので、とりあえずそこから外に出てみることにした。

 意外と外は普通かもしれない。私一人だけが、意味もわからないまま、こんな白い空間に来てしまっただけで。空はいつもと変わらない、青いのかグレーなのかよくわからない色をしているんじゃないだろうか。

 そんな思いで、重い、重い扉を、うまく入らない力で精一杯踏ん張って…なんとか開けた。

 希望はすぐに打ち砕かれた。

 私の目に映った空は、白かった。

 異様なはずなんだ。この光景は。

 だって、どこにも、空にも、建物にも、花にも、色がない。

 空を飛んで行く鳥でさえ。

 限りなく、白い。

 でも、私は…この光景を…

 知って、いる?


 急に頭が痛み始めた。偏頭痛へんずつうは持っていないはずなのに。

 あぁ、そうだ。きっと寝過ぎたんだ。

 こんな時は気晴らしに何かするといいんだ。

 頭が痛いなんて忘れてしまえるようなことを。

 そんなことを考えながらふらふらと歩き回っていると、これまたひとかけらの色味も持っていないピアノに出会った。白い、白い、ピアノに。

 

 ゆっくり、そばに置いてあった椅子を引き、座る。

 少しばかりほこりをかぶっていたので、鍵盤の部分だけ払い、そっと、指をのせる。

 そして、思い思いに指を動かして曲を弾く。

 即興曲かもしれないし、昔弾いたものも混ざっているかもしれない。

 「〜♪」

 あぁ、なんて色彩豊カラフルかなんだ。

 偏頭痛のことなんて忘れてしまえるぐらい。

 

 さて、そろそろ指も疲れてきたし、おしまいとしよう。

 私は少しばかり曲の終わりを惜しむようにしながら、指を止めた。

 そのとき

 「パチパチパチ」

 と、拍手の音が聞こえた。

 

 その音の先にいたのは、一人の…少女だった。


 




 

 

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