少女未睡 −ショウジョミスイ−
時計ウサギ
第1話 その少女、不眠症につき。
薬品と人々の溜息の混ざった独特の匂い。
静かで、それでいてせわしない、そんな人間の気配。
白いはずなのに、黒いモノが溜まったような壁の隅。
きっと、あの隅には、人々の不安が集まっているのだろう。と、誰かが言っていた。
ここは病院。私、
「佐伯さーん。佐伯紺さーん。いらっしゃいますかー?」
どうやら順番が来たようだ。これでやっと憂鬱な待合室から抜け出せる。
「あっ、はい!今行きます!」
そこそこ元気に返事を返し、診察室に向かう。
扉を開けると、先ほどまで感じていたせわしなさが、より一層深まったように思えた。
「はい。佐伯さん。こんにちは。調子はどうですか?」
心療内科だからだろうか。普通の内科よりも先生の雰囲気が優しい気がする。
「えーと…。相変わらず眠れませんが、特に変わったことはないです。」
「…そうですか。やっぱり、この症状だと…」
先生が頭をかきながらうーん…と、悩んだような声を出す。
「不眠症。ですかねぇ…。」
フミンショウ。…なんとなくそうかと思ってはいたのだが、まさかこんな風にしっかりした病名がつくなんて。
「…そうですか。わかりました。」
「では、薬処方しておきますね。」
「はい。ありがとうございます。」
病院に来たからには覚悟はしていたものの、薬となると金銭的な面に不安が出てくる。
まあ、でもこれで眠れるようになるのなら安いものか。
「あぁ、そうだ。佐伯さん。そんなに眠れないなら、アロマを
「…そうですか。でも、そういうのってどんなお茶が良いとかあるんですかね?」
「それなら、カモミールティーがいいと思うよ。僕、ちょうどいま持ってるから、はい。これを使ってみるといいよ。」
そう言って先生は紅茶とアロマのようなものが入った袋を私に手渡した。
家に帰るとシャワーを浴び、パジャマに着替えてから、早速さっきもらったお茶とアロマを試そうと袋から取り出す。
まずは、先に水を汲み、薬を流し込む。
それから、紅茶用の湯を
−数分後
湯が沸ける音とアロマを焚く匂いがする。
紅茶を
薬の効能もあってか、うとうとしてきた。それもそのはずだ。
だって私は、もう少なくとも2週間は寝ていないのだから。
そこから前のことなんて、もう覚えちゃいない。
ただ、何かとても−眠れなくなるぐらい−ショックなことがあったということは覚えている。
さあ、眠れるのなら、すぐに寝よう。
私は残ったお茶を飲み干し、部屋の電気を消してから、足早にベッドに潜り込んだ。
やっぱり、病院にかかってよかった。と、そんなことを考えながら、私は目を閉じた。
…足音がする。ここは私の部屋のはずなのに。それともこれは−夢。なのだろうか。
せっかく眠ることができたのに、勿体無い気もするが、そっと目を開けた。
そこで最初に目にしたのは、途方もない、白、だった。
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