第129話 過去から覚める

「こちとらからすりゃ、死すれど身体を移し換え、魂さえ滅すことなけりゃ己の死もなし。

 ゆえに己の死が最終話として、こちとらの最終話なんざありゃしない。

 そもそも、死と生の線引きをいったい何処でするのか。

 こちとらは魂の死、つまりは身体が無くなろうと魂さえ消えなけりゃそいつは死んじゃいない。

 こちとらの旦那さんは、使い物にならなくなりゃ死んだと同じ、っていう。

 ま、忍らしい答えだ。

 あんたはどうだか知らないけどね。

 そんな風に人によって違うからさ、あんたにとっちゃ既にこちとらの最終話は来てたのかもしんない。

 けど、ね。

 あんたがどうだか、他人がどうだかじゃない。

 異世界の己という一息は最終話は来ない。

 そういえば、また旦那も同じ。

 もう、己の産まれた世へは帰らないと決めたんだ。

 だから、本名、神の名なんて要らない。

 名乗ろうじゃないか。

 伝説の影忍 墨幸忍隊隊長すみゆきしのびたいたいちょう 霧ヶ峰キリガミネ夜影ヨカゲ

 守りたいもん一緒に守って、居たいとこ一緒に居ていいじゃないの。

 忍だから何?

 幸せになったって、夢を見たっていいじゃない。

 一人の人として誰かに愛され誰かを愛して。


 長話ししちゃったねぇ。

 そろそろ夜明けだ。

 さぁ、あんたもそろそろ……。

 門を開けてあげるよ。

 最後の舞いにしましょうや。

 ほら、手を離さないで、影を踏んで。

 これでさいならだ。」


 影を舞え 足を鳴らせ

 魂を繋いで歩み行け

 あなたの世へ 送りませう


 影に呑み込まれる。

 手を強く握る冷たい体温がとけて消えていく。

 赤く光る片目が最後に見えて、鈴がリン…と鳴った。

 歌が途切れる。













 目が覚めると、ベッドの上だった。

 時計は7:32を指し示す。

 夢…?

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