第128話 異世界者同士

 ワシからすれば、彼処あそこは異世界だった。

 それでも、夜影ヨカゲからすれば此処が異世界だ。

 ややこしいことこの上ない。

 だが、伝説の忍は異世界では神で、夜影はそれを捨てて此処へ戻ってきた。

 影神が居なくなればどうなるかは知らない。

 風神であるあいつは向こうに残った。

 一つ、「ガミヤ…いや、夜影を頼む」と言って。

 神ではなく、忍を選んだ夜影を咎めることなく、寧ろ背中を押した。

 世を繋ぐ門が出来た時、わざと風で急かした。

 帰ってくるな、と。

 ワシが生き返ったのは、夜影の再生の歌のせいだったのか、そうじゃないのかもまだわからない。

 わからないことだらけでも、別にいい。

 知らなくていい。

 夜影がまた、今更に語ってくれるだろう。

 例えば、ワシがもう不老不死の呪いにかかっていることもついさっきだ。

 永遠でもいい。

 夜影と足並み揃えて、何億年でも生きてやる。

才造サイゾウ…どったの?」

「いや、なんでもない。」

 障子を閉めて、振り返る。

 満月の夜だ。

「戻ってきてから約一年だねぇ。」

「そうだな。」

「…才造、目が怖ーい。」

明日あす、非番だったよな?」

「才造は仕事でしょ。」

「そうだが、お前が非番なら問題ない。」

「才造のそういう強引なとこ、好き。」

 手を伸ばす。

 覆面を降ろして、横になる夜影を撫でた。

 忍だから何だ。

 一人の人として、人間ひとの真似事でもいい、ただたった一人を愛したい。

 そして、たった一人に愛されたい。

 同じ夢が夢じゃなくなる。

 世が違えど、中身は同じ。

 離したくない。

 指の傷痕は未だに消えない。

 くっきりと残っている。






「才造さん、おさは?」

「悪い。用があるか?」

あるじが呼んでおります。」

「代わりで、十勇士じゅうゆうしの誰かを向かわせろ。」

「何かありましたか?」

「夜影は今動けん。」

「…なるほど。わかりました」

「今日中に動けるようになるとは期待するな、とだけ知っておけ。」

「…それはわかりましたが、あの、才造さんは平気なのですね?」

「あぁ……いや、ワシも今日は休む。夜影を放ることはできん。」

「わ、わかりました。」


 振り返ると、まだ眠っている。

 流石に、減給されるかもしれないな…。

 寝顔を眺めながら、それでもまぁいいかと思い始めていた。

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