第125話 帰還

 あれから、どれだけ経っただろうか。

 戻ってこないその影を未だに探す。

 ここに連れ戻された者も意識がない。

 もう…諦めるべきか。

 と、セツ殿どのが現れた。

「気配がするのう。」

敵襲てきしゅうでござろうか?」

「うむ。しかし、われの勘だがそれだけじゃなかろうて。」

「どういうことでござろう?」

「ようやっと、ぬしの影が来る。」

 そう答えると刀を手に持った。

 忍らが刃を交えだす。

 そうか…やっと……。

「すまぬ、手伝うてはくれぬか。」

「構わん。主に死されると、我が困ろう。」

「かたじけない。」

「気にするでないわ。」

 飛び込んできたやからを切り払う。

 多い………!

 目の前の敵の刃を受け止めた時、背中から刃がくうを切った。

 間に合わぬっ!

 ザシュッ

「ちょっと、ちょっと、こちとらのあるじに手ぇ出さないでくれるぅ?」

 その声は待ち望んだ忍のモノだった。

「よくぞ戻った!」

「話はたっぷり、片付いたらしますよ。」

「うむ!」

「下忍!裏から回んな!深追いはするんじゃないよ!」

 その指示が通った瞬間、気配が変わった。

「上忍!何してんの!館から離れない!十勇士じゅうゆうしはここを囲んな!!」

 俺の周りの敵を刺し殺しながら、とどめも忘れずさし、指示を出し続ける。

 機能を失いつつあった忍隊は、その声で立ち直り敵を着実に減らしていった。

 雪殿は鞘に刀をしまう。

 満足そうに笑んでいる。

 敵を全て討ち、あるいは撤退させ静かになった。

「死んだと聞いたが……。」

「はい。そう、部下が報告したことを知っております。」

 久しく見る服従の証は、違和感があった。

 なにせ、普通見ないものだからだ。

「お前の意志か?」

「いえ、部下の誤りでしょう。この通り、生きております。」

「そうか。今まで何処に?」

「それは…。」

「俺んとこだ。そいつを狐から預かってた。」

「な、なんと!?それなら何故そうと申して下さらなかったのでござる!?雪殿も、知っておりながら!」

 雪殿は俺の忍の頭を撫でると、溜め息をつく。

ぬしまことを伝えたとて、どうにかなるものではあるまい。こやつの魂はこの世から離れておった。ゆえに、そやつに預けておった。」

「そういうことだ。だから同盟も組んだ。そっちじゃ死んだことになってたからなぁ。」

 それを聞いて、忍を見下ろす。

 顔を上げず、だがわかった。

 何かを隠しておるのだ。

「何を、隠しておる?言うてみよ。」

「何も隠していませんよ。」

「俺の知らぬことを知っておるのだろう?」

「そりゃ、忍ですからね。」

「言うてみよ。」

 黙りこんだ。

 答えられないことならば、都合が悪いということだ。

 俺に聞かれて都合が悪いということは、例えばなんだ?

 隠すことなのだから、隠しておいて支障は出ぬが、聞かれては困ること…。

「ふむ、われから答えよう。こやつは、捨て置かれた身である。部下が死しておると報告したのは誤りであるが、こやつが生きておると知っておりながらそう報告をしたのだ。それを黙っておる。」

「雪さんっ!」

「知っておりながら、こやつもまた、部下のそれを黙り、誤りの答えを出した。」

「何故、言わぬ。何故。お前はそれでいと申すか。」

「…はい。部下がこちとらを死んだものと報告したのがわざとであれど、構いません。それを、あるじに知らせる必要はないと。」

「何故そう思う?必要ない筈がなかろう!そやつを咎めねばならぬだろう!」

「おやめください。」

 その声に振り向けば、副長がたっていた。

 確か意識がずっと戻らぬままだったはず。

「目が覚めたか…。」

「はい。申し訳ありません。」

「して、どういうことだ?」

「主 直々じきじきに手を掛ける必要はない、というだけにございます。ワシが処理致します。」

 その声には圧がかかり、重く、怒りを含めていることも察せられる。

 しかし、俺もそれは同じだった。

「それは出来申さぬ。それがしは、大切な忍を失いかけたのだ。それを収めるのは…。」

「やめてくださいよ。忍風情しのびふぜいなんかの為に、そんな馬鹿げたことを。」

「何を言う!また忍だからと!」

「忍だからですよ!こちとらの事です。あんた様がいちいち口出しする必要もないんですよ!昔から何度もそう言ってるじゃないですか!」

「だからなんだと言うのだ!忍であろうが同じだ!それを抜けば何が違うと言うのだ!お前は俺の大事な友であり、また家族のようなもの!それを捨て置いた等と許せることではない!!」

「もぅ…あんたってお人様は……。」

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