第120話 矢文の宛は

「あぁ、カラスのなり損ないの兄弟じゃん。そっかぁ、もうこの子らも大人かぁ。」

「誰だ?」

「いや、ちょっとね。会いたいって。」

「は?」

「久しぶりじゃん。会いに行ってみよっかなー。」

 才造サイゾウさんは一気に顔色を暗くさせた。

 あー、もしかして才造さんって重いタイプだったりすんのかな?

 師匠より嫉妬とかしそう

「『もし良ければ来てください。待っています。』だとさ。」

 ヒラヒラと紙を揺らしてそう内容を言った。

「え、場所とかは?」

「ないよ?日時だけー。ま、あっちはわかってんでしょうね。日時さえ伝えればこちとらが来れること。」

「そいつはお前の何だ?」

「や、怒んないでよ。昔助けたひなの様子見じゃない。」

 ムッとした様子で問う才造さんを押し退けながら軽い口調で返す。

 なだめるようには言うけど、才造さんがなんでそう気に入らないと言いたげな顔をするかには気付いていないようだった。

「っていうか、生きてたんだねー。ってきりもう死んでるものかと。」

 そう嬉しげに言うけど、何気に酷い。

 どんな奴かは俺もわからない。

「で、いつ?」

「秘密。こちとらだけの用なんで、知らなくていーんじゃない?ってことで早速場所を探ってみますかね!」

「今…からか?」

「そ!今!」

 ニッコリと笑って手紙を両手で大事そうに持つ。

 それは…才造さんに向けちゃいけないんじゃないだろうか?

 まるで楽しみだと言っているようなもんだよな。

 そしてまた案の定才造さんは不満そうにした。

 今にも鼻歌でも聞こえてきそうな師匠はさっさと姿を影に消した。

「またお預けくらった…。」

「ドンマイです。」

「つーか誰だ…殺す…!」

「才造さんてそんなキャラでしたか?」

「悪いか?」

「あー、いえ、別に…ハイ。」

「どっちだ。というか明らかに引いた顔するな。しばくぞ。」

「すんませーん。」

 重たいなぁ。

 うっかりその気がなくても近付けば殺されそう……。

 師匠って鈍感なとこもあるんだな。

 これだけ才造さんが不満だって気を全開にしてるのに。

「才造さんって、師匠の何処が好きまんですか?」

「全部。」

 即答した…。

「嫌いなとこは?」

「あったら『愛してる』とは言わん。」

「言ったんですか!」

「それがどうした。」

「うわぁ…。」

「お前本気で一発殴っていいか?」

 つい、口に出た。

 めっちゃ溺れてるやつだぁ…。

 え、忍がいいの?

 自分で言ってたクセにいいの!?

「忍じゃないんですか?」

「好きなもんは好きなんだよ。告った時点で覚悟はしてる。だからあるじはもう作らない。」

「あれ?ってことはやめたんですね。」

「いや、主は死んだ。野良の忍なだけだ。」

 スラスラとなんでもないように並べたように答えると座り直した。

 チラと手を見ると珍しく防具をしていない。

 そういえばさっき師匠も外していた。

 …のわりには師匠の爪は鋭かったからアレは防具が、じゃなくて爪に合わせて防具を、ってやつなんだろうな。

 その薬指には真っ赤な噛んだような傷があった。

 もしかして…それって…。

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