第119話 花二輪と1人

「おかえんなさい。紅葉抱えたまんまでお外をお散歩ですか。」

 煙管きせるを片手にくつろぐ師匠がそうからかうように言った。

 いや、これは師匠のせいでもあるけど。

「収穫は?」

「凄いあった気がする。」

「あら、そう。才造サイゾウがまーた余計に喋ったんだー?口が軽い忍ですこと。」

「そうだな。つい、お前のことになると。」

「そんで、聞きたいんだけど師匠、その煙管ってあやかしのだろ?」

「まぁね。」

「普通とどう違うんだ?」

「これ魂吸ってるから。煙は妖気を見えるようにしただけ。有害か無害かは意思次第。それが違いだよ。」

「た、魂…。」

「これがまた美味しゅうて!やめらんないわけよ。あんたが吸ってるタバコとは結構違うでしょ。」

「美味しい?」

「やめときな。人が吸うと高確率で死ぬよ。」

 クルクルと煙管を回して弄ぶ。

 漂う紫の煙は妖気なんだろう。

 いい匂いがする。

 才造さんを見ると、別に嫌がる様子はない。

 多分、無害だってわかってるからだ。

 もしくは、師匠だから?

「師匠って酔う?」

「あー、酔うよ。一応…ね。」

「何杯が限界?」

「さぁ?限界まで飲むこたまずないからねぇ。量的に最高でたる5個分くらいは飲んだけど。」

「あ…無理だなこれ。」

「だから言っただろ?酒は水だと。」

「ハイ…。マジで水ですね。」

「あっはっはっはっは!酔わせようなんざ思わないでねー?伝説の忍より飲める口だから。」

「逆に師匠って何が弱いんですか…。」

「んー?弱い…ねぇ…。尻尾…かな。」

 いきなり笑うのをピタリと止めて首を傾けながらそう言った。

「あぁ、猫の尾は敏感だからな。耳はそうでもないのか?」

「あー、そうそう、尻尾は隠せるんだけど、耳は隠すと支障があるから出してんの。」

「道理でな。尻尾隠して耳隠さず、か。」

 才造さんの手が師匠の頭へ伸びれば師匠は耳を倒して少しだけ下を向いた。

 優しく撫でる才造さんを見ていると、ちょっと凄いなとか思う。

 だって、自分より強い師匠がこんなにも大人しく撫でられてるんだ。

 付き合ってるから…ってわけじゃない気もする。

 耳の裏を撫で始めれば、とろんと気持ちよさそうな表情をした。

 え、なんか、俺って、邪魔?

「相変わらず…か。」

 ボソリと呟く才造さんに、気付いているのかいないのか、今にも喉を鳴らしそうだ。

「んやっ。」

 途端にパッと師匠は才造さんの手から離れた。

 すると今度は頬に手をやった。

 それも逃げられる。

 更に、と手を伸ばす。

「や。」

 両手で才造さんの片手を掴んで床に押し付ける。

 「もういい。」と言いたげだ。

 才造さんは空いている片手で覆面をおろした。

「お前は後ろを向いてろ。」

「え?」

「今すぐに。」

 圧の掛かった声にバッと二人に背を向けた。

 え、凄い気になるんだが。

 ってか、俺の居るとこでイチャイチャするなよ!!

 羨ましいわ!悲しいわ!!

 倒れる音がする。

 おい待て待て、何して…

 つい振り返る。

 すると才造さんが案の定師匠を押し倒していた。

「あっぶなー。」

矢文やぶみだな。」

 その会話にハッと我に帰り壁に目を向ければ矢が刺さっていた。

 なるほど、それが当たらないように押し倒しただけか。

 びっくりするわ。

 起き上がって矢を引き抜きそれにくくられた紙を開く。

「…?お前じゃないか?」

「こちとら?ちょいと見して。」

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