第118話 散歩

「うわぁ、才造サイゾウさんもビンタされてますね。」

「あぁ、思ったよりかは痛かった。」

 街を歩きながらそんな会話をする。

 二人の右頬には真っ赤なもみじが浮かんでいる。

「おやおや、お二人共紅葉を抱えてどうしましたか?」

「師匠に、ちょっと。」

「はっはっはっは!王様もあの忍にゃ勝てんか!」

「こら!国王様にそんな口のききかたはおよしなさい!すみませんねぇ。」

「あ、いえいえ。」

 酒飲みのおじさんと、酒売りのおば様は笑う。

 才造さんは溜め息をついて肩を落とした。

 それは「やれやれ。」と言ってるように見える。

「才造さんは酒は飲みますか?」

「ワシは好まん。だが、夜影ヨカゲなら飲む。夜影は昔から酒に強い。酔ったところを見たことはないな。」

「マジっすか。酔わせることって出来ますか?」

「やめておけ。酔った時の対処法は知らんぞ。」

 ってことは、出来ないことはないってことか。

 酔うところを見たことがないって…。

「どのくらいまで飲んでましたか?」

「さぁな。だが、たるの一つや二つは余裕だろう。量的に。」

「酔わせてみませんか?」

「酒は水だ、夜影にとって。薬かそれの効果がある何かを混ぜたところでそれの耐性もあるんだ。尋常じゃない量の酒が要るぞ。阿呆あほか。」

 うーん…才造さんでも無理、となれば虎太コタさんを頼るしかないのか?

 面白そうなんだけどなぁ。

「タバコは吸いますか?」

「吸わん。」

 タバコに火をつければ才造さんは風向きを見て立ち位置を変えた。

「なんでっすか?」

「体に悪い。言っとくがお前、歩き煙草はやめろ。煙草の煙は寿命を縮める」

「意外…。そういうこと気にする人だったんですね。」

「知ってるか?旦那が煙草を20本以上吸ってるっていう妻は病気になりやすい。ある意味旦那は妻を殺してるな。」

「マジで言ってるんすか!?」

「それくらい心得て吸え。煙が出る以上は、お前だけの問題じゃない。迷惑だ。」

 あぁ、だから風向き見て立ち位置変えたのか。

 煙を吸わないように。

 タバコを灰皿に捨てて息を吐く。

「まぁ、夜影みたいに吸えばやめられなくなるもんだからな。無理に吸うなとは言わん。」

「ちょっと待った!師匠も吸うんですか!?」

「夜影は煙管きせるだ。それも、あやかしの。」

「え?妖の煙管ってなんですか?」

「本人に聞け。ワシは詳しくない。知ってるのは夜影は人が吸う通常のもんはあまり吸わねぇってことだ。」

「才造さんって酒もタバコも好きじゃないのに、師匠は真逆ですね。」

「ワシもまったく経験がないわけじゃない。仕事で必要なら飲むし吸う。それだけだな。」

 あ、仕事ではあるのか。

「吸いたいって思ったりしません?」

「ないな。」

 護衛と称して隣を歩く才造さんは、よく喋る。

 あの無口は何処に言ったんだろうか。

 等と、今更に思った。

「ギャンブルは?」

「必要ならするが、好まん。するときは大概たいがいいかさまだがな。」

「え、ズル!?」

「あくまでも仕事だ。」

「師匠は?」

「アレは…手練てだれだな。賭け事は強い。」

「いきなりアレ扱いですか。」

「弱いところは本当に弱いんだが。」

「え、弱点知ってるんですか!?」

「昔の話だ。今更効くとは限らん。」

 頭を掻きながら、目を伏せる。

 何か思い出したんだろう。

 その何かが気になる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る