第116話 忍の恋は難しい 四輪目

「改めて言う。好きだ。付き合ってくれ。」

「後悔しないでよね。喜んで。」

 祭りが終わり、余韻よいんが残る中、背中合わせにそう呟き合う。

死人しびとの食う、再生の林檎りんごじゃあるまいし、どうやったの。」

「唄が聞こえた。あれは…あやかしのか?」

「妖力…無意識に使っちゃってたのかねぇ。」

「ワシもわからず生き返ったんだ。まさかお前が神だったとはな。」

「その神に告ったんだから、絶対幸せにしてよね。もう幸せですけど!」

「なら、これ以上ないくらい幸せにしてやるまでだ。」

 もう、かっこいいこと言ってくれちゃってさ。

 も、そういうことをなんですらすら言えるかなぁ。

 好き…。

 そういえばビャクを放置してるな。

 まぁ、いいか。

 忍の恋は許されない。

 でもおのれは神だ。

 ならいいだろう。

 強引な理由で今までの枷を投げ捨てる。

 神…ねぇ…。

 やっぱり……

「神様やめて忍やってようかなぁ。」

「やめられるもんなのか?」

「さぁ?でも、ほら、気持ちの問題じゃない?」

「そんなもんなのか。」

 笑い合って、ふと、しんと間が空いた。

 手を引かれて顔を合わせる。

 目をゆっくりと閉じた。

 頬に伝わる手の体温に従って、近付けた。

 あと寸…

「あ!居た!夜影ヨカゲ!!」

 その声にばっとお互い急いで顔を離す。

 顔を反らしあって、手で覆う。

「何処に行ったかと思えば!って、どうした?ソイツ、誰?」

「う、あ、お忘れですか?あの、才造サイゾウですよ!才造!」

「え!?才造さん!?来てたんですか!?」

「あぁ…。くそっ」

「あの…本当に最悪な時に来やがりますね…。」

 もう焦ったせいでまたあの頃の接し方になった。

「で、二人で何をしてたんですか?」

「大人の話に首を突っ込むな。餓鬼は帰れ。」

「いや、俺、もう大人ですけど。」

「察しろ。」

 才造は腕を組んで不機嫌そうな声で言う。

 ビャクは少し考える様子を見せてから「あっ。」と声を上げた。

「意外だなぁ。忍ってそういうのナシなんじゃなかったっけ?才造さんがまさか師匠に手を出すとは。」

「しばかれたいか?」

「何よ。手を出すって。」

「手を出すのはこれからだ。」

「あ、じゃぁ、まだか。」

「なんて会話してくれてんのよ、あんたら。」

「難易度高そうだったのに、案外そうでもないんですか?」

「いや…惚れ薬もあったがそれが効いたんならそうだが…そうでないならどうだろうな…。」

「あれ、なんか聞き捨てなんない言葉が聞こえた気がする。え、ってかそんなことするお人だったの?」

 こちとらを無視して二人であれこれ言い始める。

 取り敢えず、後で麻痺薬仕込んでやろう。

 舞った後で二人で飲んだ酒に入れたのだとしたら…。

 いや、それだと可笑しい。

 だって、舞ってる最中の話だ。

 それだったら…。

 って、待って待って…そもそも才造の薬なんて効いたことがないんだけど、もし効いていたとすればこれはどうなんの?

 そんな軽いもんで惹かれたの?

 それは…嫌……。

 というか手段を選ばない、みたいなことするなぁ…。

 薬の耐性を上げる為にちょいと修行か鍛錬か積もうかな……。

「まったく…お預けくらうとはな。」

「忍の恋は難しいねぇ。」

「今のはあいつのせいだろうが。」

 接吻くらい、いつでも出来るでしょーが。

 もう、付き合ってんだから。

 人前じゃなかったら…だけど。

 睡魔がゆるりと祭りの余韻を残しつつ忍び寄る。

 それに逆らうことなく、才造の肩に寄りかかる。

 すると、手を掴んで引っ張られて、ぽすっと才造の腕の中へと収まった。

 抵抗する気もなかった。

 そのまま頭を撫でられて、うとうととする。

 才造に顔を埋めて目を瞑る。

 体からは完全に力を抜いて、安心感と共に眠りに落ちた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る