第115話 愛を舞う

 影は舞いて、風は奏でる。

 幕からもう片方の神が姿を現す。

 笛を手に神舞曲を奏でる。

 足は一段と速くなる。

 この影に追い付けなくなれば終わり。


 舞や舞え 風の音に

 ただ影を踏んで 笑いませう

 願いを強く握りしめた

 その心を今 叶える為


 奏で奏え 影の歌に

 ただ風を聞いて 回りませう

 願いを強く抱き締めた

 その心を今 叶える為


 奏で舞え 神のままに

 ただその魂 魅せませう

 願いを強く 現して

 その心を今 満たす為


 その心を今 叶える為


 歌が酔わせる。

 音が速くなっていく。

 それに合わせて足も手も速くなる。

 少しずつ遅れていくその手がこの手から離れれば終わり。

 神もあやかしも唄を歌う。


 嗚呼ああ 生きるが為

 死にく為に

 魂を永遠に燃やして

 嗚呼 甘美なこの願いを

 再び燃やそうぞ


 嗚呼 舞い狂え 歌い狂え

 魂を延々と燃やして

 嗚呼 強気なこの心を

 再び燃やそうぞ


 嗚呼 生き返れ

 死に尽きるな

 魂を永久燃やして

 嗚呼 美しい貴方の音

 再び聞かせて


 再び燃やそうぞ

 この魂尽きるまで


 歌が変われど、笛の音は違和感なく奏でられる。

 男の手が離れた。

 男の影を飲み込む。

「さぁ、お次は誰が一緒に舞ってくれるの?」

「なら、ワシが舞おう。」

 その声に手を伸ばした。

 この手に伝わる体温は嬉しかった。

才造サイゾウ…。」

「お前の唄に起こされた。夜影ヨカゲ。」

「馬鹿…。」

 そう言いながら、曲に合わせ、共に舞う。

「舞いきれたのなら叶えましょう。あんたの願いをお一つ聞かせて。」

 歌うよな心地でそう転がす。

 それにつまづくことなく手を強く握った。

 忍の二人で舞いましょう。


 我が心を揺らせ 忍ばせや

 闇に紛れては 命散らせ

 我が身を捧げるあるじへと

 鋭き目を光らせて


 いざ 舞わせ このと共に

 影になりて 風に乗れ

 命を尽くし主を守り

 我が冷たき瞳に 貫け


 我が心を隠せ 忍がごと

 影を落として 騙しちて

 我が身を尽くす主の影

 鋭き血を浴びさせて


 いざ 参れ この刃と共に

 影となりて 風を知れ

 この身を捧げ主に誓え

 我が冷たき瞳で 射抜け


 いざ 忍び参らん


 まだまだ速くなる。

 忍がこの程度、追えないわけが無い。

「本気で行くよ。」

「離しはしない。」


 最後を舞え 影を追って

 この手を離さず 強く願え

 風の音に酔いしれて

 影の手に飲み込まれ


 最後を歌え 風に乗って

 この手を捕まえて 強く願え

 風の音を飲み込んで

 影の手に酔いしれよ


 最後に願え 先を望め

 この手を握り締め 強く舞え

 風の音も聞こえない程に

 影の手も見えない程に


 音が止まり、息が吸えない。

 最後まで舞えたのは初めてだった。

 未だに手を握り締めて、二人で見つめ合う。

「才造…好き。」

 泣きそうな声で呟いた。

 きっと、聞こえたんだろう、忍は無言で抱き締めてくれた。

「愛してる。」

「お馬鹿さん…そういう恥ずかしこと…言わないでよ。」

「お前はそうじゃないのか。」

「言わせないでよ。愛してる。」

 叶えた願いは忍の昔からずっと続いてた暖かく強いもの。

 心臓が鼓動を歌う。

 耳を当てればそれは酷く強く心地良かった。

「嬉しい程にうるさいね。」

「顔に出ない自覚はあるが、そればっかりはどうしようもないな。」

「もうちょい喜んでよ。でも、珍しく顔真っ赤じゃない?」

「お前もな。」

 手を握ったまま、影を踏む。

 笛の音が再び流れ出す。

「もうお一つ舞いを踊りませう。」

 この手を離さずもう一度

 愛してる、を聞くが為


 一人の人として舞わせて

 貴方に酔いしれて

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