第110話 風が甦る

 足が風に流される。

 一つの大きな洞窟に縄で古びたふだと一緒に巻かれている。

 触れると簡単にそれは落ちた。

 風が唸る。

 この先がなんなのかわかっている。

 進めば進むほどに風は強くなる。

 やっと奥に着けばソコには縛られて札だらけになった少年が座っていた。

 いや、これだ。

 これが、自分だ。

 その頬には自分の模様が描かれている。

 首に手を添えた。

 派手な音が響いて体が薄く消えていく。

 吸収されていくのがわかる。

 風が強く強く唸った。

 目を開けると、自分を縛っていたそれは音を残しながら地面に落ちていった。

 身を見下ろす。

 長いこと…本当に長いこと留守にしていた身体だ。

 立ち上がると、外へ向かう。

 アイツは知っているのだろうか…自分がその神であることも。

「お前もまた、何処かに封印されているのか。」

 呟いた声は妙に重しがかかって今までの声とはまったく違う。

 この国の名は封印された神二つの名を合わせたものだ。

 フウガミヤ。

 それがこの国の名であり、自分とアイツの名だ。

 外の光りは眩しく感じる。

 目の前には一人の老人が腰を抜かしていた。

「おぉ…おぉ…フウガ様が、目をお覚ましになられた…!!」

 その老人に近付いて見下ろした。

「ガミヤは何処だ。」

「ヤミサ様は、未だ、目をお覚ましになられてはおりませぬ…。」

「何処だ。」

「ビャク国王様がいらっしゃるお城の地下にあるという影の洞窟に…。」

「そうか。そこに、いるんだな。」

 拝むように手を合わせて頭を下げる老人を置いて、飛んだ。

 風を連れて、出来るだけ速く。

 今、何処にいる。

 お前の身体はそこにある。

 お前自身は今、何処にいる?

 戻ろう。

 やり直そう。

 今すぐにでも。

 終わりの見えないこの魂に、終わりを見せよう。

 地に足は着かなかった。

 やっと、知ることができた。

 やっと、わかった。

 お前は妹でもないが、同類ではある。

 あの日、確かにお前を封印させた。

 確かに、お前を止めようとした。

 そうだ、そうだ…やっと記憶が戻った。

 その身をもう一度、見せてくれ。

 手を伸ばした。

 あと、数センチ。

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