第108話 一度目の最後

 両親が死んでから、妹はよく外出するようになったように思う。

 黒に赤い華を浮かべた着物でひらりひらりと風に舞いながら日陰をカランコロンと音を歌わせ歩いていく。

 ある日は花を摘みに、またある日は本を抱えて。

 一緒に歩く時は三歩くらい斜め後ろをゆっくりとついてくる。

 その時は影を出来るだけ踏まないように。

 手を繋いだことはない。

 触れることも、少ない。

 時々見える傷が気になっても、聞こうとは思わなかったし、妹からも言ってこなかった。

 カランコロンと音がする。

 小さな声が跳ねている。

 八重桜やえざくらの下でクルクルと。

 苦しいと思えば妹は隣にちょこんと座って黙っている。

 辛いと思えば妹は後ろで花を飾った。

 いつでも、妹は控えめな笑みを乗せた顔で微妙な距離を保って何も言わない。

 おれが崖から飛び降りた時、最後見えた顔には目を見開いた影が揺れていた。

 小さい手がおれに伸ばされても、掴むことはなかった。

 そのままおれは地面にぶつかると、息を捨てた。

 暗い道をひたすら歩かされる感覚を覚える。

 あれきり、妹に会うことはなかった。

 ただ、一度として泣いたことがない妹を探そうと思ったのは、泣きそうな心が寂しかったのかもしれない。

 影の中は冷たかった

 今まで二人で歩いた影が酷く寒かった。

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