第106話 イジメ

 感情を許されるカラスの狭さは、人間に近くも結局は人間に飼われる道具でありきっと息苦しいことには変わりない。

 それをなんとなくで感じ取っては、忍の方が数倍かは楽なんだと思った。

 彼らがおのれに何かと押し付けたり理不尽な理由で攻撃等を加えるのも人間のイジメと何が違うか。

 度の差や基準の上下くらいだろう。

「お前が行け。どうせ暇だろ。」

「失敗だけはすんなよ。」

 そう見下した目で任せられた仕事はただのカラスならこなせない。

「ったく…ハイハイ、やってみせますよ、ってね。」

 独り言で答えて分身を作り出す。

 どんなに大きな仕事でも、どんなに多くの仕事があっても、忍でありおさであった己の手に掛かればカラスの仕事なんぞまだまだ甘い。

 とはいってもまだ歳はガキだし常に大人と同じ身体にする為に変化へんげの術を使っている。

 疲労が溜まるのはまたこの人生でも変わりないらしい。

 ただ、最近は面白いことにドヤ顔で仕事を終えたという報告等をすると向こうが顔色を悪くするところだろう。

「カラスの皮を被った忍って結構良くない?強くない?ってかこのカラス風忍装束気に入ったわ。」

 鏡の前で自画自賛するくらいには余裕もある。

 才造サイゾウを真似た黒いマスクも、たまにやってた忍化粧もやってしまえばいつかの忍とは印象も変わる…はず。

 ただ…この赤い目だけはしょうがないね。

「ミヤビ、よく聴け。ここで拷問に慣れるように毎日お前だけ夜することになった。必ずだ。いいな?」

「こちとらだけ…ですか?」

「当たり前だ。」

 いやぁ、どの辺が当たり前?

 カラスそんな修行しねぇじゃん!

 忍はガッツリするけどね。

 けど拷問の修行って確か、6、7才の内から既にやってなきゃいけない奴じゃん。

 遅くない?

 両手を縛って片っ端から様々な拷問を受ける。

 通常なら最初は簡単なモノから延々とやっていくしこんなごちゃ混ぜににすると子供の身体は直ぐに壊れる。

 そう…腕が折れるだけじゃなくもぎ取られてしまったりするのも別に有り得なくない。

 死ななきゃいいんだから。

 この拷問の目的は己を傷付けることの他はない。

 だから楽しげにやるモンだ

 だから、笑ってやる

 こちとら忍の修行は何度も何度もやったんだ。

 今更痛みなんかで言葉は吐けないし、むしろ相手を笑って馬鹿にしてやる。

 この拷問が終わる頃には、血塗れになって、いくつか骨も折れていた。

 だからなんだ。

 頭を踏みつけられても、構うことない。

「お疲れさん♡っと。」

 風呂につかって、ゴキッと関節を鳴らす。

 拷問部屋から出てきた己を見て他の奴らが真っ青になってたりしていたのはまた新鮮な風景だ。

 その拷問は日に日にエスカレートしていき、懐かしさを呼んだ。

 この状態で死んだ日が過去にあったな…くらいの感覚だった。

 四肢を切断されて、首をギリギリ息が繋げる程度に締められる。

 ホントに死ぬ寸前までの拷問。

 動けやしない。

 あばら骨もいったなこりゃ。

 ただ、それでも笑い続ける己を見下ろしたソイツらは体調不良に何人かはなったし、それくらいグロテスクだったんだろう。

 放置すれば死ぬとわかっているから雑な治療を受けた。

 そっからは己の力になる。

 己の姿を見た、カラスを育てるその男は信じられないモノを見たような表情を浮かべてから、次の日に拷問は終了だと告げた。

 こんな状態でも働けというんだから、無理矢理術と薬を駆使して仕事を死にかけながらこなしてやった。

 当然…ぶっ倒れた。

 それでも動こうとすれば全身から血が傷から流れる。

 血溜まりを作りながらでも起き上がろうとしたら流石に止められた。

 その目をよく覚えている。

 恐怖。

 自分が相手に何をしたか、カラスならわかるだろう。

 忍であったならわからなかったろうが。

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