第104話 先輩と後輩

 オレには凄い先輩がいる。

 優しいし、強いし。

 けど未だに男か女かわからない。

 それと、何歳かもわからないし、若いらしいけど大人っぽいから20代後半かもしくは前半ならオレの1、2こ上だと思う。

 前は、オレに金くれて食えって言ってくれて泣きそうになった。

 が、その金は嫁に吸収された。

 バレて、食う前に没収とか凄い先輩に申し訳ない。

「あんた、その顔だとまた何かあったっぽいね。」

「わかります?」

「まぁね。こちとら察するのは得意だから。どうせ、また嫁さんだろ?」

「え!?言ったことありましたっけ!?」

「別に。知ってるだけ。食えなかったって顔に書いてあるよ?金、吸収されたんだ?」

「なんでそこまでわかるんですか?」

「慣れてんだよ。しょーがないねぇ。…じゃ、後でこちとらの部屋おいで。作ってあげる。」

 オレに振り向いてそう言った。

 流石に耳を疑う。

 ここまでしてくれる奴なんて普通いない。

「なぁに、その顔は。やっぱ嫁さんの料理しか喉を通らないっての?そりゃしょうがない。嫁さんに化けて作ろうか。」

「いやいやいやいや!!!そこまでしなくても!」

「嫌じゃなきゃおいでね。あんたに倒れられちゃこちとらの相手は誰がすんの。」

 相手?

 ミヤビ先輩の相手だったらオレじゃなくてもいっぱいいるだろ?

 鍛練だって、オレとしたことないし、仕事で組むことだってない。

 じゃぁ…何の?

「休憩するときは、あんたじゃなきゃ空気が重っ苦しいんでね。頼むよ、本当。」

 手を軽く振って影を巻いて消えていった。

 まさか、それ?

 オレだけが確かにミヤビ先輩を嫌な目で見ない。

 皆、あの忍みたいだって嫌がって睨み付ける。

 そうか…オレ、ミヤビ先輩の息抜きに役立ってんだ!

 良かった…。

 夕方になって、ミヤビ先輩の部屋にいく。

 ノックしようとすると、扉が開いた。

「お疲れさんっ!んじゃ、入って座ってて。」

 あれ…先輩…素顔!?

 固まっていると、首を傾げてオレをみた。

「何?もしかしてお急ぎの用事でも?」

「いや、えと、初めてみたもんですから…。」

「初めて?あぁ、そっか、確かに。顔をあんたに晒すのは初めてか。」

 でもやっぱり性別はわからないっ!!

 中に入ると、内装は不思議だった。

 こんな部屋見たことないなぁ。

 色々と見たことのない道具が置いてあったり、何故か草とかも置いてある。

「先輩、これってなんですか?」

「あぁ、それ?薬作んのに使う道具。そこにあるのは全部そう。」

「薬作るんですか!?」

「まぁね。市販より効くよ。得意だから。ま、あんたが必要だってなればなんでも作ってやるさ。気軽に頼みにおいでね。時間かかるけど。」

「あ、ありがとうございます。」

 また優しいというか嬉しいことをいってくれる。

 こんなにいい人は中々いないんじゃないかって思う。

「先輩ってずっと気になってたんですけど何歳ですか?」

「そうだねぇ。あんた22だろ?」

「はい。」

「それより下。先輩、先輩って言ってくれちゃってるけどこちとら歳は全然後輩だから。」

 そう言いながら料理を目の前に並べていく。

 めっちゃ美味しそうだけどそれどころじゃない答えだ。

「え…下?」

「そう。まだガキなのよ。こちとら。数えて…やっと11?かな。」

「嘘…ですか?」

「まぁ、そう見えるわな。25、6くらいに思ってたんじゃないの?」

「え、はい。そう思ってました。え?11…?」

「見かけによんないでしょ。見掛けで騙すタイプだから。」

 まだ大人にもなってなかった…。

 でも、オレより背も高いし、声だって完全に大人びてて…。

 11歳の外見でも中身でもないだろ!!

「どうやったらそう見せられるんですか…。」

「んー、今更言うけど、こちとらさぁ…あんたらカラスが嫌うあの忍の生まれ変わりなんだよね。」

「はい?」

「転生したってこと。」

「本気…ですか?あれから10年経ったって聞いてますけど、当時のこと知ってるっていうんですか?」

 嘘だ。

 だって、こんな優しい人が忍なわけない。

「信じたくないのもわかるよ。でもそろそろ明かしてもいいかなって思ってね。知ってるも何も、カラスを殺した犯人だし、どうやって殺したのかもしっかり覚えてる。」

 それを聞いて胸ぐらをつかんだ。

 忍なら、可笑しくない。

 子供から大人の姿に変わっても。

 どういうことだ。

 なんで…。

「なんでオレに今教えた!?」

「あんたなら許してくれる、とかいうことは思っちゃいないし、申し訳ないとも思うよ。今までカラスのフリしてたんだ。騙してるのと一緒。」

「なんで、ずっとここに!」

「殺してくれてもいい。あんたと違って、周りはこちとらを嫌った。それが正しかったんだよ。だから、教えてあげたんだ。嫌うべきはここにあるってね。」

「何を企んでる!?」

「別に。企んじゃいない。カラスになったのも成り行きだし。」

 胸ぐらをつかむ手から力が抜ける。

 酷い忍だってわかっても、それでも…ダメだった。

 そんなオレにナイフを手渡す。

「殺しなよ。いいよ。ほら。」

「で、出来るわけ…。」

「なんで?」

「だって、今までオレに優しくしてくれたことにはかわりないだろ!!」

 ミヤビは溜め息をついて呆れた顔をした。

 そしてナイフを持ち帰ると自分の首にあてる。

「やめろ!」

 その手を掴んだ。

 反射的だった。

 死んでほしくない。

「あんたってば、可笑しいカラス。」

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