第98話 言葉をなくしたい

 ピイィ

 指笛が高らかに響いて飼育している竜を呼ぶ。

「流石忍。三日で竜を手なずけるとは。」

「やめてくださいよ。ちょっと仲良くなった程度じゃないですか。」

 竜の頬を撫でながら、そう嬉しげに返す。

 竜が人に慣れるのはプロでさえも時間がかなりかかる。

 それをなんでもないように呼び寄せて触れる。

 だから竜を飼育する者皆が師匠を尊敬したり羨んだり教えを乞う。

「どうすればそのように?」

 師匠は飼育している竜全てと仲良くなってしまっている。

 それも一匹三日。

 三日あれば慣れることができるのは竜の血を受け継ぐ者と同等かくらいのもので、しかも今親しそうに触れる黒龍にいたっては一番難しい。

 未だに誰も触れるどころか近付けないというのに初対面でサラリと竜のふところまで潜り込み、二日目には触れるまでにいき、三日の今日は呼び寄せてしまった。

「この子もわかってるんじゃないですか?人間様よりよっぽど忍の方が近いですもんねぇ。」

 竜は師匠の手に甘えるように唸って頬を手に擦り付ける。

「難しい話だなぁ。」

「あぁもう癒されるぅ…。はぁ、もう、あんた、羨ましいくらい美人さんじゃないの。」

 竜の顔をぎゅっと抱き締めてそう溢すと、竜も嬉しそうに目を細めた。

 竜の美人イケメンとかそういうのどころか、性別もわからない俺はただただそれを眺めている。

「そういえば、同じ指笛で何故それぞれの竜を呼び寄せられるんだい?」

「カラスなら聞き分けられるのかもしれませんね。忍や竜にはまったく違うように聞こえてますよ。」

「うーん。同じようにしか聞こえない。」

「そうでしょうね。」

 たっぷり竜と触れあって、こっちに戻ってくる。

 名残惜しそうに竜が鳴くのを師匠は手を振って終わらせた。

「竜と会話出来たりするのか?」

「えぇまぁ。モンスターでも竜でも何でも慣れれば何を言ってるのかくらいはわかりますし、こちとらもその言葉を扱えば会話くらい簡単ですね。ただ、余りにも慣れてると同じ言葉なんて要らなくなりますよ。」

「慣れればって…。」

「例えば虎太コタとこちとらですね。お互い喋る必要なんてないでしょう?」

「同じ感覚なのか?だったら俺でも出来るのか?」

 手を口元において少し考えてから、頷いた。

「ビャク様ならモンスターや竜は無理でしょうが、人等なら目で会話くらいは…。」

「じゃぁ、夜影ヨカゲと俺で喋らずに会話出来たりとか。」

「あぁ、ビャク様さえわかってくだされば会話は可能ですね。既にこちとらはビャク様の言いたいこと等は目だけでわかりますよ。」

 クスクスと抑えた笑いかたをする。

 俺は師匠の笑いかたでなんとなく今の感じを察するのが限界だろうけど、多分慣れれば目だけで色々やり取り出来るのか!

「ま、期待しときますね。何かと便利になるでしょうから。」

 まて、慣れればって言ったけど、実際どうすればわかるようになるんだ?

 師匠はいつの間にか何処かへ消えていた。

 後で聞くか。

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