第97話 毒話

 フォークで肉を刺し、口に運ぼうとしていた。

 それが一瞬にして影に奪われ、目の前の皿も消え失せる。

 犯人はわかっている。

「ちょっ、夜影ヨカゲ!何し…。」

忍風情しのびふぜいがこんな真似して申し訳ないですけど、死なせるわけにゃいきませんからね。」

 微妙に笑んだ口がそういつもよりゆっくりとした口調で言った。

 死なせるわけには…ってことは。

「間に合って良かったですよ。料理に毒が盛られていましたから。」

「なんで気付いた?」

「そりゃ、毒味致しますからね。お陰で舌が麻痺して早くは喋れませんよ。」

 溜め息と一緒にそう言うと、皿の料理を使用人に手渡す。

「これ作った料理人で怪しい奴炙り出しして。」

「はい。わかりました。」

 慣れたように使用人に指示を出す師匠は、リーダーみたいだ。

 ん?さっき毒味したっていったよな?

「麻痺程度で済むのか?」

「まさか。こちとらで麻痺するんですから、人間がアレを完食するまで至らなくとも死にますよ。」

 あぁ…そっかそっか、師匠は凄いんだったわ。

 それに、薬もあっただろうし死にはしないか。

 薬があっても麻痺るんなら相当か?

「うっかり薬手元に用意しなかったこちとらも自業自得ですけどね。」

「舌の麻痺程度で済むのかそれ。」

「忍ですからね。そろそろ痺れも収まってきましたよ。」

「あれ…もしかして闇属性じゃない?」

「いえ、闇属性ですよ。っていうかいっそこちとらに属性なんざ関係ないですから。」

「強ぇ…。忍凄ぇ…。」

 思わず呟く。

 そういえば、忍って毒の耐性とかあるんだったな。

「なんで毒の耐性あるんだ?」

「そりゃ、子忍の間に毒を飲んで慣らしますし。いっそ、忍ってのは体内に毒を飼いますから。」

「へぇ…それって、大丈夫なのか?」

「さぁ?修行中に周りが死んでくのに慣れるのさえ三日かかりましたから。」

「なんで三日で慣れるのか俺には理解出来ないけど忍がヤバいってのはよーくわかる。ってか、死ぬんだな…やっぱり。」

「はい。余裕で死にますね。ま、最初はこちとらも何人か殺しましたけど。」

 ケロッとした顔でサラリとそんな問題発言する師匠が俺は怖い。

 忍だから、慣れててこれが普通だっていうのなら仕方ないかもしれないけど。

「そのとき何かあったのか?」

「あー、殺したのはそう命令されたからですよ。総当たり戦で素質を見るために殺しあいをさせられるんです。その時は流石に生き残ろうと必死だっただけで他意はありません。」

 まだ小さい頃だからってことか。

 だから、取り敢えず生きようとして命令に従わざるをえないって状況だったんろうな。

 そうなると、好きで忍になろうとしたって感じはしないな。

 もしかして、カラスと違って強制的とかそんな感じなんだろうか。

「どうせそこで死のうが悲しむ家族も居ませんからね。」

 どこか投げ捨てるような雑にそう言った。

 その言い方も、言葉も、冷たく感じた。

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