第96話 暇を弄ぶ

「なぁ、聞きたいんだけど。」

「はい、なんでしょう?」

「なんで外せるのに外さなかった?いくら俺が取るなって言っても邪魔だったらこっそり取るとか出来ただろ?」

「無茶言いますね。外せるわけないじゃないですか。」

「なんで?」

「外せないんですよ。首輪なんて。」

 首に手を添える。

 そこには何もない。

「だから、なんで外せないんだ?」

「さぁ…なんででしょうね。外したくないんですよね。邪魔でも、あった方がいい。」

 目を閉じてそう言う。

 外したくない…か…。

「もしかしてドMだったりするか?」

「えへへ、そうかもしれませんね。」

 そう笑った夜影ヨカゲは、すんごく可愛いかった。

 ドキッとするくらい。

 でも言ってることはちょっとどうなんだろう。

 ドSかと今まで思ってたけど、Mだったなんて。

「首輪が外れた時の解放感が、嫌いなんですよ。あるじがいないっていうのが苦痛というか…。道具だから、ちゃんと使ってちゃんと捨てて欲しいんです。」

「独占されたい…的な?」

「あは、それは幸せですね。」

「マジか…。」

 じい様が言ってたこと当たってる。

 縛られたいとか、そういうことだろ?

 つまりは、自由が嫌いで。

 必要とされたいって思ってるんだな。

「まぁ、本音のところ、主のモノになればこちとらは金を貰えるんで安心だってくらいですよ。」

 一瞬で黒い笑顔になってそう言った。

 もう師匠SやMとかじゃなくて、どっちにでもなれるやつだ。

 忍ってやっぱり金なのか!!

 安定した給料の為だとかいうやつかよ。

 期待した俺ってなんなんだよマジで!

「あっはっはっは、こちとらがタダ働きするMなワケないじゃないですか。」

「うん、まぁ、そうだけどさ。」

「でもまぁ、主の為ならこの命くらいくれてやりますよ。金が貰えなくとも、ね。」

 あぁ…そうか。

 死んだら金なんて受け取れないし払えない。

 だから忍ってのは外れた仕事なんだ。

 いや、それとも、ちょっと違うのか?

 命掛けるくらい危ない仕事だからこそ、とかいうやつか?

「そういえば、もう、諦めてくれたか?敵討ち。」

「あぁ、それですか。勿論ですよ。主が居るのに前の主のことやる忍が何処にいるんです?」

 冷たいのかそうじゃないのかわかんねぇタイプだなこれ。

「まぁ…いつまでもビャク様のお傍に仕えることは出来ませんがね。」

「え?それってどういう…。」

「さぁて、鍛錬でもしますかね。暇なのは嫌いなんですよこちとら。」

「ちょっ、待て!」

「足が遅いぜビャク様ー。」

「なっ!?こんの!!」

 影だけ見せて走って行きながらそう小馬鹿にした声で笑う師匠を追い掛ける。

 師匠ほど足が速くもなければあんな危ない所を通れるほどバランス力もない。

 まぁ…忍相手に張り合うバカはいないだろうけど!

 しかも忍の中でもまた頂点にでもいそうな師匠だ。

 忍であっても師匠に張り合える奴いないだろ。

 そんなこんなで今日も日が暮れていく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る