第91話 通過点
「あんた…とんだお人好しだね。ほっときゃ良かったのにさ。」
ぶっきらぼうにそう言って、顔を背けた。
なんでかな…?
「ほっとけないよ!だって、」
「『死にそう』だったら誰でも助けるっての?」
「敵じゃなかったら助けるよ!」
「じゃぁ、もしこちとらがあんたの敵だったとしたら?」
「それでもほっとけないの!」
溜め息を吐き出して、頬杖をつく。
呆れた顔で私を見た。
「あんた、お馬鹿さん?」
「むぅ!酷いなぁ!そんなにバカじゃないよ!」
「さぁ、どうだろうね。あんたは兎も角、他のお人が嫌がってるってのに見ず知らずの他人を看病するってさ、周りの気も考えなかったワケ?」
「でも…。」
「他人の命より、仲間を大事にしな。友人家族は一生モンだかんね。それに比べりゃ他人なんざ。」
私じゃなくて私の後ろの方を見てる。
振り向くと、皆がビクビクしながらこっちを見ていた。
「礼は言うけどさ。あんまりお仲間さんに無理させなさんな。ね?」
ぽんっと私の頭に優しく手を置いて首を傾ける。
その表情はやっぱり優しかった。
さっきはそんな感じの全然見せなかったのに。
「ってことで、ここにこれ以上長居は出来ないから行くわ。ありがとさんっ。」
ふらっと立ち上がったから、
「まだ無理しちゃダメなの!」
驚いた顔を一瞬だけして、目を細くした。
「あんたねぇ…話聞いてた?」
「聞いてるよ!でもまた倒れちゃうでしょ!大怪我なのよ!」
「大丈夫ですって。こんだけ休めば充分過ぎるくらい。だから上から退いて欲しいかな。」
「充分じゃないの!」
「やれやれ…まいったね。」
ぽふっと頭をベッドに落として、呟いた。
困ったような笑みを浮かべている。
悪い人とかじゃないってわかったから嬉しかった。
「ねぇ、なんで倒れてたの?」
「そうだねぇ…なんでだろうね。」
「何があったの?あんな所で。」
「さぁて、何があったかな。」
聞いても答えてくれない。
わざとそういう答え方してるんだろうから、記憶喪失みたいなんじゃないって思うけど…。
「寂しいねぇ…。」
首に手を添えてそう小さくかすれた声で転がせた。
それは、私とか誰かに言ったんじゃなくて、本音みたいなのが自然と転がり落ちたみたいだった。
多分、触れちゃいけない話とかなのかもしれない…。
「悪いけど、こちとらちょいと仕事があるんだ。だからさ、」
「でもダメ!」
「デスヨネ。そんじゃ…こうするとしますか。」
え?
影が濃くなって、沈んでいく。
どういうこと!?
「じゃ、失礼するわ。」
それだけ言ってトプンッと影の中に独りだけ入っていって消えた。
逃げちゃった!!!
「逃げちゃったよ?」
「あれなに?!」
「沈んでったよな!?」
皆もびっくりしてる。
あんなこと、出来るなんて思わなかった。
何処にいっちゃったんだろう…?
大丈夫…なのかな?
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