第90話 拾った傷

 傘を打ち付ける雨の中で、地面に伏せる黒い何かを見つけた。

「なんだと思う?」

「えー?何が?」

「あれ。あの黒いの。」

「行ってみりゃいいじゃんよ。」

 近づいて見れば猫族の者である証拠の耳と尻尾がついた人。

 猫族と言えば、『見た目で判断してはいけない』という言葉がよく当てはまる性格の者ばかりだ。

 どうする?というように顔を見合せる。

 でも、見た感じ状態は悪いようで、浅い呼吸を苦し気に繰り返している。

 意識もないようで、血溜まりを作るくらい怪我も凄い。

 見たことのない服装だけれど、戦闘用に見える。

 戦って、負けた…のかもしれない。

 痙攣を起こしているし、種族がどうのこうのと気にしてはいられない。

「助けよ!」

「はぁ?コイツ猫だぞ!?」

「でも!このままじゃ死んじゃうよ!」

「どうせ恩を仇で返されるぞ。止めとけって。触らぬ猫に祟りなしっていうだろ。」

「言わないよ!作らないの!」

 傘を投げ捨てて倒れている人を背負う。

 驚くほど軽く、見た目は確かに細いけどもっと重くないと可笑しい。

 もしかして、服の下がもう骨になっちゃってたりしないよね?

 しないよね!?

 ホームの玄関で一旦降ろすと、皆が興味津々で近寄ってきた。

「だれー?」

「わぁ!?凄い怪我!!」

「あっ、この人猫じゃんかぁ!!」

 それに気付いた瞬間皆は遠ざかって、嫌な顔をする。

 それが、私は嫌だった。

「大丈夫だよ!逃げなくても!」

「だって…。」

「いいよ!私一人で面倒を見るわ!」

 ふんっとそうぶつけて自分の部屋に連れていく。

 ぐったりとしていて全然起きない。

 ベッドに寝かせてから初めて顔を見た。

 女の子なんだろうか、それとも男の子なんだろうか…?

 目の下にくまがあるから、多分あんまり寝ない人なんだろうなぁ。

 それから4日経った。

 その間に、一度でも目を覚ましたことはなくて、段々不安になってきていた。

 このまま…死んじゃうのかな?

 もう駄目なのかな?

「ねぇ…お姉ちゃん。その人、起きないの?」

「うん…。」

「もう諦めない?やっぱり無理だよぉ…。」

「なんでそんなこと言うの!」

「だって怖いもん…。」

 確かに皆怯えてるし、このままじゃどうなるかわからない。

 でも…でも…諦めたくない!!

「ん…ぅ…。」

 かすれた声が聞こえて嬉しくなる。

 直ぐに駆け寄った。

「目が覚めた?目が覚めた?」

 目を開けるその人は私を見て驚いたように目を見開いた。

 そして直ぐに周りを見る。

「あんた…誰?此処、何処?」

「落ち着いて!あのね、あなたが倒れててね、それで、死んじゃいそうだったから、此処に連れてきたの!もう駄目かと思ったぁ…良かったぁ!」

「…そう…。」

 虚ろな目は片方が綺麗な赤色をしている。

 でも、本当に疲れきった顔してて、もうちょっと休まないといけないなって思う。

 酷い人じゃないって信じて、元気になるまで一緒にいてあげなくちゃ!

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