第89話 自由を嫌う
血に染まった部屋を歩いていた。
とても懐かしい光景と、匂いで満たされたアジト。
心臓がない、肉の塊が転がっているだけの空間で首輪が解かれた違和感を感じる。
自由になった息苦しさと、首輪が外れたことによる解放感への嫌悪から早く、早く…早く逃げ出したかった。
主が居ない、ということがいつの間にか苦痛で延々とあの家に代々仕えていたのだ。
主が居ないのであれば先としては
カタンッと後ろで音がした。
殺意が
(何故だ。)
その問いに答えよう言葉が見つからない。
怒りとを抱えて虎太は己に問う。
何故、こんな状況に陥ったのか…と。
(
こっちだって知りたい。
笛に首を傾げながら向かって用を済ませて戻れば、既に事は進んでいたのだ。
死人に口はないのだから、まだ喋れる者が答えるしかない。
失望するだろう。
この程度の奴だっただなんて今まで思わずとして戦場で何度も刃を交えたのだから、無意識にでもこうなるとは誰も思いはしてくれない。
だから、何故なのかと問う。
けど、言うなら失望出来るほど自身を棚にあげる口ではない筈だ。
だからなんなのだ。
言い訳ばかりを並べたところで、話は進まない。
長たる者、そうそう馬鹿をやってられない。
(これからどうするつもりだ。)
責めるような目が己を捉えるが、
慰めや甘やかしを貰う方が苦痛で、どうにかなってしまいそうになるからだ。
「探りを入れて、敵を
(本気か?)
「本気?あぁ、そうだよ。」
(なら、一人で行け。敵討ちはしない。)
「わかってる。最初から一人で行くつもりだったさ。あんたが敵討ちなんざする筈がないのは勿論だけど、全部こちとらのせいだから最後まで処理する。」
(そうか。)
敵討ちをするのは、まだ首輪に繋がれていたいからだ。
すがりついて、残り物に食らい付く。
それがどんなに無様でも…ね。
アジトから出て走った。
走って、走って、足の感覚が遠退いても気にせずに。
地面にぶつかる。
足が動かない。
痙攣して、視界がぼやけていく。
喉に何かがつっかえて、息が上手く出来なかった。
クラクラする頭は段々何も考えることができなくなって、声は一切出ない。
それでも望んでもないのに口角はこれでもかとつり上がる。
激しい雨が体を打ち付けて、体温を奪っていく。
そこで、己の意識は完全に途絶えてしまった。
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