第86話 背で受けて口で返す

 背を向けた師匠に銃を構える兄に俺は声を上げそうになった。

 何度も響いた銃声と、その分だけ飛んだ銃弾は師匠の背中を攻撃していく。

 それでも師匠は動かなかったし、笑って俺を見ながら俺に無言で言った。

(絶対に声を出すな)

 血が床に落ちていく。

 銃弾が切れてカチカチと無意味な音を出してからやっと、引き金に力を込めることをやめた。

「死なねぇ…だと…?!」

「弾切れかえ?オニーサン。」

「ひっ。」

 ユルリと振り返りながら笑いかけるそれはホラー以外の何物でもない。

 そんなの誰だって同じ反応をする。

 撃ったのに倒れないで笑うとか、有り得ないんだ。

「オニーサンてばお馬鹿さんなんだね。武器を失えば、何にも出来ないだろうに。たかが、狙った王座が取られたくらいで。うつわの小せぇガキだこと。」

 カラカラと笑う。

 あぁ、意識ないのか。

 ただ眺めることしか出来ないし、今はそれでいいんだと思う。

 師匠に任せるべきなんだろう。

 意識ないみたいだけど…。

「背を向けた時にしかまともに攻撃出来ないたぁ、ある種の負けだねぇ。オニーサンみたいなガキが王じゃなくて正解だわ。」

「うるせぇ!!じゃぁビャクはいいってのかよ!どうせお前は教えたから庇ってるだけだろうが!」

「やぁねぇ。報酬がなけりゃこんなガキお断りだよ!報酬が案外美味だったから、その延長さ。」

「じゃぁ、俺が金を払えばなんでもすんのかよ。」

「忍だからね。金さえ払やぁなんでもするさ。ビャク様の首を落とすことも、ね。けど、その働きに見合う金を払えんの?」

「用意してやるさ。」

「あは、そりゃ期待しとくわ。」

 まるで微塵も期待してなさそうな言い方をするなぁ。

 っていうか、ちょくちょく酷いし何気に俺の首落とすとか言ってたし。

 兄が金集めたらマジでそうなるよな?

 忍だし。

「ま、あんたにゃ無理だろうけどねぇ。さて、帰るとするかね。」

「待てよ。お前、なんて名してる?」

「そうだねぇ…忍にゃ名なんて要らないからさ。なんとでも呼べばいいんでない?」

「ネコミミ待てっつってんだろ!まだ終わってねぇ!」

「誰がネコミミだ。あんたら兄弟ほんっっっっとうに似てるよね。」

 自分で好きに呼べって言ったのに怒るのかよ!

 ってかまったく同じなんだが。

「好きに呼べって言ったの誰だよ!」

「言ってないもーん。なんとでも、とは言ったけど好きにとは言ってなーい。」

「似たよなもんじゃねぇか!」

「じゃ、こちとらはこれにて。」

 ドロンと煙を巻いて消えた。

 あれ?俺は!?

 俺はこのまま放置なのか!?

 師匠!?

 あ!笛も消えてる!!

 どうすりゃいいんだよ!!

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