第85話 逃げ方
「死ね!」
振り上げられた刃を見つめる。
武器の行先を見つめて予想する。
振り下ろしたなら次は横切りするだろう。
なら後方へ下がってから…。
周りに何があるか探す。
花瓶!
振り下ろされた刃をギリギリで避けて、続けざまに横に切りつけようとする兄に花瓶を投げた。
「くそっ。」
あとはどうする?
焦るな。
笛を握り締めて、考える。
『刃がなけりゃ、代わりの武器を見つけりゃいいんだよ。例えば、部屋の中にあるモノ全部。使い方によっちゃいい盾にもなる』
ケラケラと笑う師匠を思い出して、椅子に手を伸ばす。
近くのモノでいい。
なんでも使えるっていうんだ。
だったら、使ってやる。
刃を突き出すように兄が前へ足を出しながらその手を前へ。
それと同時に椅子を引っ張って椅子の背もたれを盾にする。
背もたれを突き抜けて刃はそこまでで止まる。
知ってるさ。
そのまま勢いよく横へ椅子を投げた。
兄の手から刃が離れる。
「お前…調子に乗るなよ。」
「は、兄さんなんかに殺されねぇよ。逃げ方知ってるもん。」
師匠みたいに挑発する。
「あ"ぁ"?糞ガキが!!弱いクセに、逃げたって同じだ!この部屋からは出られねぇんだからな!」
銃を取り出して俺に向ける。
銃は…どうする?
何で逃げ切るんだ?
笛を握り締めても焦って答えが出ない。
何に使えた道具なのかわからない笛を咥えて吹いた。
音は出なかった。
「なんだ?鳴らない笛か?お前も馬鹿だな。」
パンッと銃声が響いて目を瞑る。
痛みは来ない。
恐る恐る目を開けると、師匠が俺に背を向けて兄に笑っていた。
「あらぁ、お兄さんじゃないのー。ビャク様が何か致しましたか?例えば、殺したくなるほどのこと、とか?」
相変わらず小馬鹿にしたようにケラケラ笑う。
「てめぇ、誰だ!何処から入りやがった!」
「忍なもんで、何処からでも♡」
その手で銃弾を止めたとか、忍ってそんなことまで出来たのかよ
「それにしても…ビャク様がまさか忍笛のことを知ってるとはねぇ。」
「え?」
「あんた知らずに使ったのかい!?音、聞こえなかったでしょ?アレ、忍にしか聞こえない音なんだよ。カラスはもうちっと低い音なら聞き取れるかな。」
「じゃぁ、これって忍呼ぶ為の!?」
「ビャク様にお呼ばれされちゃいまして♡」
両手をポンッと合わせてニコニコと愛想よく笑った。
あー…師匠ってなんでも似合うな。
ってかこんなキャラしてたっけこの忍。
「はぁー…本当、タダ働きは嫌なんだけどねぇ。可愛い可愛い教え子の酷いお呼び出しだから、さ。」
ウィンクして指を組んだと思えば黒い煙が巻き起こった。
それに包まれて、前が見えなくなる。
「何処行きやがった!?」
煙が消えて、そう叫ぶ兄が見える。
何か言おうとしたら、師匠に口を塞がれた。
「忍術で一旦お兄さんからは見えないようにしてる。でも、弾にゃ当たるからね。静かにしてな。」
師匠はクイッと指を引いた。
すると独りでに扉の鍵はカチリとあいて、開かれる。
兄は振り返り、驚いた顔をする。
「あんたは暫くここで息を潜めてな。こちとらがどうにかする。」
すると、師匠は影を巻いて兄の目の前に立った。
「てめぇ…。」
「ビャク様だけは逃がさせて貰いました、っと。追いかけてもいいですが、その前に忍のお話聞いちゃくれません?」
「てめぇの話なんか聞いてられるか!」
「あんたの返事は聞いてないっつの。いいから聞けや。」
「…はい…。」
怖ぇ…怖ぇよ師匠…。
あの兄をよくその一撃で…。
「ビャク様にもし手出しなんざしたらあんたの首はないと思って下さいネ。殺しでもしたら…長い苦痛を味わうこととなりますよ?こちとら、一息で殺す優しさは無いんで。呪いでもかけてあげたいところですが、今回のところは手を引きます。ですが、間違っても…。ね?」
「は…はい…。」
「聞き分けの良いガキで安心したわ。危うく今首掻っ切るとこだった。」
溜め息ついてそう言うと兄に背を向ける。
敵に背を向けるなっつってた忍は何処の誰だよ。
余裕だな、おい。
と、とりあえず助かった
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