第84話 兄弟王座争奪戦

 師匠が言った通り、俺は王座につくことになっていた。

 もう1つ、師匠が教えてくれてたのは「兄が俺を殺そうとしている」ことだけ。

 わざと、その二つを探ってきたんだと思うし、その他のことは何一つ教えてくれなかった。

 探ったのはこの二つだけなのかもしれないし、知っていて黙っているのかもしれない。

 俺は師匠に黙って、師匠の笛を持ってきていた。

 笛ごときが何かの役にたつとは思えないが、無駄な道具を持たない師匠が持っていたんだ。

 だから、せめて、無駄だったとしても。

 不安だ。

 笛を握り締めて、兄と会う。

「よう。まさかお前が王になるとはな。正式にはまだだが先に祝おうぜ。」

 差し出される赤い飲み物。

 師匠の忠告を信じて、奥歯に解毒薬(師匠が作った)を仕込んでおいた。

『先ずは毒を飲ませて殺そうとするだろうね。だから、何か飲み物を貰ったら一口飲んでから薬を飲みな。即効性だから。その一口で飲むのをやめな。いいね?』

 その声が耳元で聞こえた。

 気配はない。

 何処にもいないし、いる筈がない。

 違う。

 今じゃなくて、休憩中に言ってくれた声だ。

 近く聞こえるのは何故だろう?

「ありがとうな。」

 どっちにお礼を言ったかなんか外には関係ない。

 笑顔でそれを一口飲んだ。

 そして、薬を飲み込んだ。

 これでいい。

 兄としばらく話してから、兄の表情が少し変わった。

「何か、あったりしないか?今。」

「いいや?どうしたんだ?」

 師匠譲りの嘘。

 なんでもないふうを装い、焦らせる。

 そうしろと、師匠が言ったから。

『兄で遊んでみなよ。その時思い通りにいったなら、あんたの勝ちだ。ま、こちとらが教えたんだ。兄に負けることなんてないでしょ』

「お前…確かしのびって奴に教わりに行ってたんだよな?」

「それがどうかしたか?」

「しのびって、カラスの巣をぶっ壊してカラスをぶっ殺しまくった連中だぞ。まさか、お前そんなことを習いに行ってないよな?」

「そんなわけないだろ!身の守り方を教わったんだ!」

 師匠がそんなことをしていたなんて知らなかった。

 でも、それは…何か理由があった筈だ。

 絶対に!

「どうだろうな。王になることも帰ってきてから知ったんだろ。だったら好都合とばかりに好き放題しそうだなぁ。」

「ふざけるな!そんなことはしない!」

「わかんねぇだろ。俺はお前を信じない。俺が王になるはずだったんだからな。だから…お前が死んでも別にどうってことはない。」

 スラリと刃を抜いて、近付いてくる。

 俺は武器なんてまだ持ってない。

 師匠が教えてくれたように、逃げるしかない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る