第83話 認 白王
「っと、」
カランッと音を立てて師匠の木刀が地面に落ちた。
「え…。」
やった…のか?
師匠は木刀を拾うとコンコンと地面を軽く叩いた。
構えるのをやめると、フワリと笑った。
「おめでとさん。ビャク、あんたの勝ち。」
頭を撫でられる。
いや…待てよ…?
今…。
「い、今!名を!」
「うん?」
「ビャクって!」
「あんたも強くなったねぇ。やっとこさ、あんたのお兄さんと肩を並べる程度かね。」
ぎゅっと抱き締められる。
師匠ってこんな優しい忍だったっけ!?
あ、師匠、女だったんだ。
ってか、細っ!!
「まぁ、この一本ごときで慢心されちゃたまったもんじゃないけどね。今のは相手の刃を落としただけに過ぎない。だから、トドメを刺すとこまで行こうね。」
ぱっと離されて木刀を影に沈められる。
うん、と伸びをして空を見上げた。
「あんたのお迎えが近いねぇ。」
それから
師匠は戦い方だけじゃなく逃げ方も、王としてリーダーとしてのことも、全部教えてくれた。
そして忍の使うような方法とかも、身を守るには使えるって言って色々教えてくれた。
「カラスの使い方はわかるね?忍の使い方とはちと違う。自分の為にだけ使うんじゃないよ。カラスはあんたの目になる。見えないとこまで見てくれるだろう。カラスがそうならあんたはカラスのしてくれたことを無駄にしちゃいけない。忍ならそんなこと考えなくていいんだけどここはそうじゃない。よく考えな。悩んで、あんたが決めるんだよ。いい?」
「うん。」
「なら終わりだ。卒業おめでとさん。」
え?卒業?
なんのだ?
「師匠?」
「あんたはもう忍から教わるこたない。それに、お迎えももうじき来るでしょ。報酬受け取ったらこちとらはあんたにゃ用無しさ。」
ヒラヒラと手を振ってサラリと笑う。
何処までも冷たさが残る。
忍じゃなくて、カラスでもないように、ここまで育ててくれたのには、やっぱり報酬の為。
でも…それだけだとは思いたくなかった。
迎えのカラスが到着した。
師匠は報酬を受け取ると背を向けた。
何も言わずに去るのか。
「なぁっ、今まで、ありがとな!」
「は、忍にお礼なんざ言うんじゃないよ。ビャク様、精々頑張って下さいよ、っと。」
二ィッと歯を見せて振り返り笑う。
寂しいような気がした。
最後まで、師匠らしい。
血が飛び散った。
カラスが、背を向けた師匠を刺したのだ。
それでも師匠は何も言わなかった。
血だけを残して影へと消えた。
「師匠!」
叫んでも何も返ってはこなかった。
今ので死ぬほど師匠は弱くない。
だからきっと、きっとわざと反応もしないで消えたんだ。
そう…だよな…?
カラス…なんで刺したんだ?
なんで。
「チッ。逃がしたか。まぁいい。行くぞ。ビャク様。」
腕を引かれて城へと連れて帰られる。
悲しいような重い気持ちがどろりと心に流れ込んだ。
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