第79話 強く

 探す時は工夫しろって言ってたけどどう工夫するんだよ…。

 しかも伝説の忍って言ってたよなぁ。

「何処行けばいいんだ?こたって人何処だ?」

 キョロキョロと周りを見ながら歩く。

 突然風が唸り声を上げて通り過ぎた。

 風に押されて一歩後ろへ足を戻す。

 するとトンっと背中が何かに当たった。

 振り向くと腕を組んだ男が立っていた。

 待て待て待て、コイツは何処かで見た事あるぞ。

 確かネコミミが化けてたやつ…。

「こたって人ですか?」

 こっちを見て頷いた。

 あ、本当に喋らなさそう…。

 何か言おうとしたらそれを無視して歩き出すのでついていく。

 止まったので首を傾げて俺も止まる。

 目の前にはあのネコミミに煽られた岩があった。

 もしかして、鍛えるって言ってたやつってこれ?

 こたって人は岩に片足置くとこっちを見た。

 真似…しろとか?

 それとも見てろってことか?

 けど眺めてても進展がないから多分真似すればいいんだ。

 岩に片足を置いてみる。

 すると首を振って足を下ろしたかと思えば置いた足を掴まれて動かされる。

 移動された足場は安定していた。

 なるほど、足をかけるとこが違うって言いたかったのか。

 岩の頂上を指差される。

 登って行けってこと…でいいよな?

 手をかけてくぼみを掴んで、体を持ち上げる。

 足は滑らないし、本当に安定する。

 今度は…と足を掛けようとすると手で正される。

 手もここだと置き直される。

 それを繰り返して上に辿り着いた。

 すると今度は降りなきゃいけない。

 飛び降りたら怪我することはわかってるし、しょうが無いから足場を探して降りる。

 それもまた正されながら。

 登り降りを何度もさせられて疲れたけど休ませてはくれない。

 けど何度もやってる内にわかってきた。

 すると段々虎太コタさんが手で正すことが減っていったし、登るスピードも上がってきた。

 いつの間にか日が落ちてきて、空は桃色になった。

 虎太さんは俺の肩に手をポンっと置いてそのまま風を唸らせて消えてった。

 その意味はわかんなかったけど、何か嬉しかった。

 それに、伝説の忍に教わるとか!!!

「おやおや、優しいねぇ。ま、あんたが虎太の言ってくれたことわかるとは思わないけどね。でも、なんとなくは伝わったっぽい?」

「あぁ!ネコミミ!」

才造サイゾウ夜影ヨカゲって名を聞かなかったの?ネコミミって何処のネコミミよ。」

 呆れたように岩の上でそう返される。

「あ、夜影ってネコミミのことだったんだな。」

「あんたねぇ…。あぁそうだ。虎太がさっきあんたに言ったこと教えてあげようか?それとも遠慮しとく?」

「いや、教えてくれよ!」

「『頑張れ』って言ってくれてたんだよ。いやぁ、流石お兄様はお優しいわぁ。こちとらと違って、さ。」

 何か自分で自分を落とした言い方だな…。

 ん?お兄様?

「えぇ!?兄なの!?」

「さ、今日一日で何が出来るようになったのかな?優秀君っ。」

 小馬鹿にしたようにケラケラと狐のように笑う。

 先ずは登りきって薬を渡してやるんだ!

 岩に足を掛けて手を伸ばし、スルスルと登る。

 夜影みたいにひょいひょい飛んでは登れないけどいつかそれくらい出来るようになってやる!

 登りきって夜影の鼻先に薬を突き出した。

 夜影はフワリと笑うと受け取って半分飲んだ。

「ふぅん。初めてにしちゃ…。」

 お?

「下手過ぎない?」

 それには流石にガクッと項垂れる。

 期待した俺が馬鹿だったのか。

 そうだよな…うん。

「才造に後で怒っとかなきゃねー。」

「え、何で才造さんに?」

「あんたが薬作り下手なのかそうじゃないかは知らないけど、それを教えた才造のせいだってこと。上手く教えてりゃそれなりの薬は作れたんじゃないかってね。」

「でも、俺が、」

「あんたの頑張りは悪いけど全部、分身を通して見てた。アレは才造が雑だったわ。」

 見てたって…。

 分身何処に居たんだよ…。

 夜影は立ち上がると薬のビンを俺に投げ返してきた。

 それを受け止めて、見上げる。

「じゃ、あんたに木刀作ってあげようかね。」

「何で!?」

「何でって…まーだ鬼ごっこしたいの?ガキはこれだから。まだ遊んでたいお年かねぇ。国王さんの息子だからってまぁ甘えちゃって。」

「は!?なんで知ってるんだよ!」

 クックックと喉で笑いながら影から木刀を引き抜いた。

 それを俺に差し出す。

「忍ってのはそういうモンさ。」

 極秘情報だった筈だぞ!

 そんな情報を易々手に入れることなんて出来ないって言うのに!!

 いつの間にそれを調べたんだ!?

 木刀を握って構える。

「あー、あー、構えがなってないよー?基本的な構えはこう。」

 手を正されて持ち直す。

「ま、刀はこう持つってね。さ、一本とってみせてよね。ガキ。」

 もう一刀影から抜いて煽るようにそう言う。

 何で夜影はこんなに挑発してくるんだっ!!

 力任せに木刀を振ればカンっと払われて手から落ちた。

「しっかり握ってなきゃ駄目でしょー?ま、わざと獲物を捨てて体術に移るってのも手だけどあんたにゃ早い。」

 二ィッと歯を見せて笑う。

 楽しそうで余裕なのが腹が立つ。

『熱い』

 今…何か声が…?

 カーンッと木刀をまた飛ばされる。

「なーにぼーっとしちゃってんのかな?戦場じゃそんなことしてたら首が無くなるよ。」

「う…。何か聞こえたんだよ!」

「あんたのせいでこちとら時間取られてんだからんなやる気なさそーなことされると困るんだよねぇ。」

「だったらやめればいいじゃねぇか!俺なんかほっとけばいい!」

「黙れ。あんたは国王さんの息子。なら、捨てちゃ勿体無いでしょ。報酬が出るっつってんだからやるんだよ。」

 いきなり睨んでそう言われて声が止まった。

 正直その目と声は怖かった。

 つまり夜影は報酬の為だけに俺を鍛えてるってことだ。

 それだけでそれ以上も以下も感情もないんだ。

 利用されてる…?

「悔しかったら強くおなりよ。あんたは喰われる側の人間様なんだ。忍程度にそんなんじゃどうすんの。」

「何で自分から落としてんだよ。」

忍風情しのびふぜいがって話さ。武士を育てるのにも苦労したけど、今度は次期王様を育てるなんて。」

 え…?

 次期王様…?

 俺が!?

 いや、そんな筈は…。

「あんたのお兄さん、あんたを殺す気でいるよ。死にたくなけりゃ覚えな。逃げ方も、戦い方も。ほら一本!」

 またもや一本取られる。

 悔しいけど、気に引っかかる。

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