第73話 忍化粧と薬

 才造サイゾウ虎太コタに見られる前に、隠そう。

「(我が身よ、一時いっときの繋がりを。)」

 妖術で一時的に折れた骨を繋げて動かせるようにする。

 痛覚が戻ってくる前に、痛みを麻痺らせる薬を飲んでおく。

 専用の化粧道具を膝の上に広げて、鏡を出した。

 取り敢えず、止血と匂い消しで気付かれないようにしておく。

 そして、上から違和感なく見えるように肌を再現していく。

 盛り上がって触れたらわかってしまうようになってしまうところは迷いなく抉ったり削ったりして調節する。

 逆に高さが足りないところは感触が同じ素材で誤魔化す。

 ただ…問題なのは呼吸が怪しいということだ。

 パタンと鏡を閉じて化粧道具を片付ける。

 違和感があるから、どうにかしなくては……。

 バレたら困る。

 呼吸法を変えたら、何故かを問われた時点で終わりだろう。

 生憎あいにく、そういった妖術は持ち合わせていない。

 そもそも妖力が底をついたら腕や足は動かない。

「(我がよ、内より響け。)」

 声は一応口パクとこれで何とかしよう。

 呼吸は…隠しようがない…。

夜影ヨカゲ、無事か?」

「当たり前!さ、戻りましょーや。あるじに報告を。」

「そうだな。あんまりここに長居はしないほうがいい。」

 アジトへ戻ると酷くホッとしたような顔をした主が待っていた。

「生きてたか!」

「そりゃ当たり前ですって。あ、報告は才造からで。」

「わかった。」

 その答えを聞いてから背を向けて歩く。

 血の付いた忍装束を脱ぎ捨てると、戸棚を開ける。

 寝てる間でも妖術は解けないが、妖力が尽きたら結局解ける。

 薬が効くのはあと数時間。

「は?」

 戸棚に入れておいた薬がない。

 誰だ?

 薬を作る材料はあったが、薬を作るのにかかる時間を考えて、それは不味い。

 薬を作ってるとこを見られたら疑われるし、行方ゆくえを問うのもそれこそ。

「ちと効き目がキツイけど、仕方無い…よね。」

 材料である薬草を千切って水の中でほぐしていく。

 そして水にとけたそれをコップに入れて、今度はモンスターの血を混ぜる。

 モンスターの血はどうやらこういう効果等を上昇させるみたいで、ドギツイ薬を作るのには丁度いいから採血を行っておいた。

 っていってもやっぱりまんまで使うと大事おおごとになりかねないので、耐性があるおのれでも薄める。

 今回はそんな余裕ないのでそのままそれを飲み干した。

 不味い不味い不味い不味い不味い!!!

 不味いことこの上ない!!!!!!

 まぁ、良薬は口に苦しというように…苦いどころじゃないけど!!

 それに、忍の世界じゃ「殺薬は口に甘し」ってことわざなんだよねぇ…。

 相手を殺す為の薬等、敵や一般人に対して使うような薬はわざと相手が飲み込みやすく甘い仕様になっているゆえのことわざだ。

 ちなみに、そこらの忍が作る薬は大抵、甘さも足りず効果も期待出来ない。

 というのも、己がそういう耐性が強めであって、そういう薬についての味には煩い方だからだ。

 よく効く薬をほどよく甘くするのは難しいモンで、効果を害するモノは駄目だし、甘過ぎも駄目。

 一度甘くし過ぎた薬は後戻り出来ないので甘党以外に使えない。

 知識がないと薬は作れないが、それとは別の味の知識も必要。

 技術もいるんだから下忍、中忍共は大変だろう。

 上忍ともなればこちとらを満足させるまでには行かなくともそれなりには出来て当然だ。

 才造もまだ一度もこちとらを合格、満点だと言わせたことがない。

 才造も薬作りは上手い方なんだけどね。

 ま、猿も木から落ちるっていうように己もたまーに失敗するけど。

 忍じゃ「猿を木で落とす」っていうから本当に生きる世界の違いがよくわかる。

 自信のある得意分野で失敗させるようなことを仕掛けて相手を精神から鈍らせるってことなんだけど、結局慢心してる馬鹿猿を狙ったことわざだからね。

 あー、そろそろ薬が効いてきた。

 痛覚どころかその他感触等も全部持ってかれてる。

 薬草もわざとアレを選んだし…ね。

 さて、ちょいと寝ますかね…

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