第72話 鬼はカラスを喰らう
それをそのまま横へ蹴れば簡単にカラスは真っ二つになった。
影から出しては殺す作業を繰り返すのは、快感だった。
弱いカラスをぶっ殺すだけ。
赤子の首をもぎ取るのと同じ。
第三の親が教えてくれたように。
腕を噛みちぎる。
カラスの悲鳴なんて耳に入らなかった。
自由でいい。
左目をえぐろうと、内蔵を引っ張りだそうと、骨を引き抜こうと。
鬼だから、当たり前なんだといつかの声が響いた。
いったい何人のカラスを殺しただろう?
ふと、目に激痛が走った。
何をした?
影を見下ろせば、影からカラスの手が這い上がってきている。
血が目から溢れる。
「よくも…仲間を殺してくれたな?」
「舐めてただろ?カラスは集団になると強いんだぜ?」
「残念だったな。さぁ、お前には死んで貰う。しのびは一匹でいいからな。」
ワラワラと起き上がるカラスに、舌打ちをする。
何か能力でも使われたか。
カラスが真っ黒な塊のようになって一気に飛んでくる。
それに呑み込まれる。
背中を刺された?腕を折られた?
痛みが麻痺して感覚を切られる。
床に叩き付けられる。
過去が恐怖を持ってくる。
今が、過去を呼んでくる。
「どうした?しのびってのは、その程度か?伝説と言ったな?ほら、伝説。立って見せろよ。」
「鬼…の……
「あ?何か言ったか?」
恐怖に弱いのが忍だ。
恐怖に強いのが鬼だ。
恐怖を招くのが
だから、鬼の如く。
「 !!!!!」
殺す。
弱くても強くてもいい。
殺せりゃいい。
カラスが耳を塞いで飛び退いたのがわかる。
鬼は、鼓膜をぶっ壊す声を持ってると知らない人もいる。
「なんて声出しやがる!?」
「早くあの喉を潰せ!二度もされてたまるか!」
折れた片足を無視して立ち上がる。
馬鹿じゃないの。
忍だろうが鬼だろうが変わんないんだよ。
両足、両腕もぎ取られようが、首だけでも動く。
首が体から離れても、この歯で相手を噛みちぎる。
それと…鬼は短気なんだ。
左手で目の前のカラスの心臓を抜き取った。
血を出さないように抜き取るにはコツがいる。
カラスが寄って集ったところで、鬼は殺せないって気付かせてあげるからね。
『感覚を殺せ。』
己の血かカラスの血か
『快感に酔え。』
片目を潰されて視界が悪くなる。
『闇雲を進め。』
何度床に叩きつけられようとも、立ち上がる。
『慈悲を捨てろ。』
耳を切られて聞こえなくなる。
『我を叫べ。』
喉を潰されても砕くことは出来た。
『何も考えるな。』
折れた腕までも使って笑う。
『己の強さだけに頼れ。』
死体を踏んでカラスを蹴った。
『死ぬな。』
もうそこには何の声も残っていなかった。
ただただ、親の言葉が頭に浮かんでは血に流されていった。
懐かしい声が内から響いては、鬼になれと言う。
赤い目で見える景色は酷く鮮やかで、血が壁を染め、死体が床を飾った。
興奮を押さえ切れなくなって、死体を持ち上げる。
グチャグチャにしたかった。
肉の塊がゴロゴロ転がっているだけの空間。
指を噛んだ。
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