第68話 落ち着いた

 目が覚めると、治療をされていた。

 かたわらには虎太コタが横たわっている。

 影の中ではない地上に、いつの間に帰ってきたのだろうか。

「目が覚めたか?」

 近くで才造サイゾウの声がした。

 目の前におのれの手を持っていくが、手は見えなかった。

 暗闇で、虎太だけが見えるような気がした。

「はは……こりゃ酷いね。」

「毒を食らったせいだ。しばらく二人とも動けないだろうから、大人しく寝てろ。このクソ夜影ヨカゲ。」

「はーい……。」

 口が悪いのはいいとして、才造の声は怒ったようでもなく安心したように落ち着いていた。

 多分、かなり心配させたし、迷惑を掛けた。

おさ失格…かな。」

「そう思うなら喋るな。ただでさええげつない毒を受けてるんだ。死ぬぞ。」

「あは、長とか言うけどそういえば長終わったんだった。」

「話聞いてたか?口塞ぐぞ。」

「横に虎太居るんでしょ?」

「誰だソイツ。」

「伝説さんのこと。」

「あぁ、拾った。お前と一緒に落ちてたんでな。」

「落ちてた言うな。でも、トドメ刺さなかったんだね」

 才造が溜め息をわざと大袈裟に吐き出す。

「刺せるかよ。」

 呟くようなそれは愚痴のようで、なんとなく、凄く不満だったんだろうな。

「どういうふうに落ちてたって?」

「手ぇ繋いでどっちも笑ってた。一旦殺意が湧いたが、手が出せなかった。」

「才造、あのさ。」

「なんだ。」

「虎太……伝説さんね、こちとらのお兄さんなんだよ。」

「は?」

 才造の素の『お前今何て言った?』的な声がまさか久しぶりに聞けるとは思ってなかった。

 まぁ、確かに才造なら手が出せなかった理由として、恋愛の方向で捉えてても可笑しくないし、いやむしろそれなんだろうけど、いきなりアレ見せつけられて『両想いでした』って言ってるようなモンだろってなるのは仕方がないよ、うん。

 それで真隣に寝かしたのも多分そういう事だろうし、そうじゃなければわざと離して寝かせるだろうし、そもそも殺意でトドメを指しておいてるハズだから。

 それで次には『実はただの兄妹なんです』なんだからそういう反応を寄越して固まるのも当たり前だよね。

「初めてお前を殴りたくなった。」

「なんで!?」

「つまり…その…好きとか、そういうんじゃないってことだな?」

「あ、ハイ。ただのお兄ちゃんです。」

「それもそれで腹が立つ。今まで何で黙ってた?」

「え、言った方が良かった系?」

「じゃぁ、コイツの『夜影に一目惚れした』って話は嘘か。」

「待って、ナニソレ、聞いてない。」

「あぁ、クソ…取り合えずお前、覚悟しとけよ。」

「え、一体何の覚悟ですか?」

「ワシは寝る。動くなよ。悪化するぞ。」

「どっちが!?」

「さぁな。」

 欠伸をしながら部屋を出ていく。

 ナニコレ怖い!

 悪化するのが傷の方であって欲しい……。

「虎太、もう、目が覚めてるんじゃないの?」

「(あぁ。盗み聞きしたな、悪い。)」

「一目惚れって嘘?」

「(いや…お前に一目惚れしたんじゃない。夜影にしたんだ。)」

「あらそう。ま、夜影の口で言わせて貰うけど、虎太より才造のがまだ好きだから。」

「(それを今聞いて良かった。だが、才造に聞こえてるぞ。)」

「才造!?」

 向こうでガタンッと音がした。

 走っていくのがわかる。

「あんたら二人とも盗み聞きするとはね。本当、忍の耳悪用してるわぁ。あ、そういえば、あの時何で着物押さえたの?見えるって何が?」

「(言わせるな。気付け。)」

「えぇ…着物でしょ?何が…あっ。」

「(黒だったな。)」

「治ったらその目抉るからね。」

 笑い声が横で聞こえる。

 色まで覚えてやがんの、どうなのソレ。

 本当、ムカつく

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