第64話 鍛錬
知らせだけしてさっさと消えたってことは本当に夢だったんだろうな。
「
「何をです?」
「お前が鍛錬してるとこ。」
「いいですけど……そんなの何が面白いんです?」
「あ、いや、お前強いからどんな鍛錬してるのかってな。」
「見て何か得られるような目を持ってるなら、今までの戦闘見て得ていて欲しいんですがね。ま、いいですよ。今から丁度鍛錬するんで。」
あ、ちょっと苦い顔した。
余計な一言だったね、これは。
さて…と。
地面に座り、目を閉じる。
五分経った頃に、目を開いて立ち上がる。
「鬼の
事前に用意していた巨大な岩へ右拳をぶつけた。
岩に亀裂が蜘蛛の巣のように入り込んで砕け散った。
「
左手を砕けた岩に向けて伸ばして妖力を使って浮かせた。
そして、伸ばしたその手を強く握れば真似るかのように岩は更に砕け散る。
「忍の如し。」
忍刀を両手に砕けた岩を切り刻む。
砂と化したそれは風に飛ばされていった。
これまでが始まる前の感覚の準備となる
鬼の如く破壊し、妖の如く操り、忍の如く潜む。
そうそれぞれ教わった筈で、そのままに習得した筈。
「
指を組んで影を巻き上げ、関節を外してずらせ身を変える。
「分身。」
息を吸って、掌へ妖力たっぷりの息を吹き掛ける。
そこから生まれたモノは分身を取り巻いた後、入り込んだ。
「自我よ歩け。我が
分身の胸に手を当てて、呼び掛ける。
上手くいくかはその時次第。
息を吸うのが伝わってくる。
ここからはコイツの視界も記憶もわからなくなる。
消してしまうまで、把握することは出来ない。
「聞こえるなら、返事しな。」
「ナニ。」
「ちと、失敗だったかね。」
「ケスノカ?」
「偽物をいつまでも出しといたらこっちの身が持たないっての。後で消すさ。」
「オモシロミノナイホンタイダ。」
「ま、あんたは今直ぐ使うから、こちとらに殺されてね。」
「ジッケンノタメニツクラレタッテワケカ。」
「安心しな。あんたは
分身がその途端に爪で引っ掻いてきたのに対してさっと避ける。
そうやって先手をズルく取ろうなんざするとこは、いつかの己に似ている。
己と同等、もしくは少し下くらいの相手と戦うにはこうしかない。
都合よく呼び出してそういうことをするには、分身でなくては上手くいかない。
分身が感じたこと、己が感じたこと、どちらも総合して見る必要がある
爪を拳を振り回し、首を的確に落とそうとしてくるが、やっぱりそれには癖がある。
右手よりも左手の方が攻撃量が多いのと、それからもうちょっと相手の影を踏んだ方がいい。
攻撃を防ぐだけじゃ意味がたたないので、その爪を跳ね返した。
流石と己に褒めるのもなんだけど、跳ね返された手を握って勢いを作った拳にするのは諦めが悪い。
そうやって相手が嫌と言うほどしつこく首に執着するのも危ういといえばそうなんだけどね。
己同士腹の探り合いをその手だけでやりあうってのも中々に楽しい。
ほら、どうせまた、目を潰す気を見せつけて、奪うのは腕のクセに。
分身の顔面を掴んで地面に叩きつけるが、直ぐにこの手を離さなければ手首を潰されることくらいわかっている。
だから今度は腹に足を落としてまた逃げる。
痛みがなければ怯みはしない。
これがまた己の面倒臭さなんだろう。
右頬と、左肩を掴んで中心へ向かって力を入れながら潰す。
こうすれば首は折れる。
分身の気持ち悪いところは、折れた首をそのままにしてでも動き続けること。
「終わり。もういいよ。」
「ザンネンダ。」
分身の心臓辺りに手を刺して、その中に入れた作り物の魂擬きを掴み、引き抜いた。
その瞬間分身はまたただの影へと戻り、どちらも消した。
脳内に己の姿が再生されて、溜め息が出そうになった。
相手から己がどう見えるかを確認すると、酷く安心する。
「今日は短いですが、終了致します。」
主にそう声をかけながら振り返った
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます