第63話 朗報?悲報?

 ノックの音が転がった。

 扉の前で耳をすませて知っている奴かそうでないかを探る。

「そこに居るだろ。開けろ。」

 その声を聞いた途端、吐き気がして口を抑えて後退る。

 誰だか知っているし、此処に居る筈もないし……。

「わかってんだぞ。そこに居るのは。」

 一度後ろを振り返って誰もいないことを確認すると、扉にそっと手をおいてコツンと額を当てた。

「この害虫が。此処に何の用だって?」

 口から流れ出た言葉は相変わらずなモノで、心底嫌いだっていうのが顔を見なくてもバレそうだ。

「黙れクソ忍。てめぇも此処に何でいやがる。」

「悪いけど此処は絶対開けないから。あんたの顔なんざ見たくもない。」

「そうかよ。残念だがてめぇに知らせがある。」

「要らないね。」

「てめぇが戦場で倒れてんのが見つかった。」

 その瞬間、勢いよく扉を開けてしまった。

 見つかった?

 じゃぁ、何であんた此処に居んの?

 あんたは何を知ってるの?

 声が出ないまま、頭に浮かぶ問いは相手にぶつけることなく沈められた。

「やっと開けやがったか。」

「あんた、どうやって来たの!?」

「さぁな。だが、てめぇのことは俺の方で診ているとこだ。」

「何でさ。」

「俺が見つけて拾ったからだ。言っとくがな、てめぇンとこの奴らは皆、死んだって話で事が進んじまってんだよ。今更見つけたとこでな、信じられはしねぇよ。」

 敵に拾われた?

 なんで、よりにもよってコイツなんかに?

 足の力が抜けて、立っていられなくなり、心臓が痛いような気がした。

 見つけて貰えた事が嬉しいのか、大嫌いな敵に拾われたのが嫌なのか、それとも今更信じて貰えない存在になったのが悲しいのか。

「おいおい、てめぇらしくねぇな。」

「うるっさい。ほっといて。」

「見つけてやって、拾ってやったのに言うか?」

「今、あるじはどうなってる?」

 見なくても相手がしゃがんだことはわかる。

 頭にポンッと手が置かれた。

「アイツも相当参ってるらしいぜ。てめぇとサイが居ねぇから、忍隊がほぼ機能してねぇし、取り敢えず俺とは同盟を結んだ。しっかし、てめぇの生命力はどうなってやがんだ。あれだけ長いこと放置されてまだ生きてるとはな。」

おさを舐めんな。そう軽くは死なないから。」

 口だけは立派でも、体が動かない。

 絡んだ感情が重たすぎて立ち上がれない。

「ま、本当は見つけて持ってきたのは俺らじゃなく、狐野郎だけどな。」

 その言葉にハッとした。

 セツさんが見つけてくれた?

 でも、なんでわざわざコイツのとこに?

 ってか、才造サイゾウのとこ居たんじゃ………?

「で、俺は実は夢の中だから目が覚めりゃ帰れるっつぅこった。」

「一生眠ってろ。覚めんな。」

「ここにいて欲しいか?」

「こちとらが帰っても一生夢見とけ。その間に息の根止めてやる。」

「恩を仇で返すなや。」

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