第62話 忍とカラス

「カラスじゃないお前に何がわかるっていうんだ!」

「カラスのなり損ないが、よくいうよ。それに、忍の方がよっぽど酷いと思うけどねぇ。」

「しのび?なんだそれ。」

 説明してやる。

 するとリャトは黙ったが、お兄さんの方はまだ言う。

「んなモン聞いたことねぇよ。」

「世界は広いってことだよ。こちとらが、カラスを知らなかったようにね。」

 いや、世界違うけどね、がっつり。

「うぐ…。けど、忍とカラスの何が違うんだよ?」

「他人に頼るのが当たり前の集団でしょ?忍にそんな甘さがあると思うの?」

「集団で行動することもあるっつったじゃねぇか!」

「こちとらは戦場に捨て置かれたその集団のおさだけど?」

「あっ…………。」

 沈黙が冷ややかにただ通り過ぎた。

「仲間だろうが何だろうが信用と信頼はいつ途切れるかわかったもんじゃない。こちとらだって、仲間を仲間に皆殺しにされたこともあれば、こちとらが忍の里をぶっ潰したこともある。」

 椅子に腰掛けながら最早もはや呟くようにそうこぼした。

 懐かしい話みたいになっちゃったけどね。

「あんたらみたいに逃げ出した奴もいたさ。ソイツは殺されかけたし、仲間を沢山殺した。」

「ソイツ…どうなったの?」

「生きてるよ。こちとらが記憶を消した。そうでもしないと、いけなかった状況に陥っていたから。もう、忍の頃の記憶もこちとらのことも覚えちゃいないさ。それでやっと人になったようなモンさ。」

 と、言ってもこれもまた馬鹿みたいな話なんだよね。

 忍皆がそうじゃない。

 そもそもこちとらや輪丸リンマルが可笑しかったってだけ。

 だから、カラスのなり損ないの双子とさして変わらないのが輪丸で、違うのはおのれ

 ただそれだけでも、どうせ違うやいなやと言うのが人間。

「忍は、皆可笑しいとか思ったりしないのか?」

「しないよ。それが忍であり、それが忍の世界だ。それで皆片付ける。ガキの間にちゃんと教育してれば誰もそれが普通だとしか言わなくなる。可笑しいと思っても無かったことにする。むしろ可笑しいのは己だ、と思う他ない。こちとらだってそう思ってる。道具が夢を見るなんて笑えるね。現実を見ろ。逃げるにせよ、忍であり続けるにせよ。そんなもんでしょ。」

 夢見て生きていけるほどの立場でもない。

 忍風情しのびふぜいがアレコレ言ったところで人間様にゃ関係ない。

「でも、お前だって忍辞めたいって思ったことくらいあるだろ?」

「ないね。こちとら、一度それに染まると他の生き方が分からなくなるから。いっそ人であろうとするのに恐怖さえあるくらいにね。忍じゃないとすればこちとらは鬼かあやかしか。」

 クックックと喉の奥で笑って見せる。

 本心でもあり、本当のことだ。

 人を辞めた時点で戻りたいとは思わなくなる。

 普通じゃないことが普通になれば、普通など要らなくなり、望まなくなる。

 いくら周りがその一色であろうとも。

 目の前の恐怖に弱いのもまた、忍だろう。

 忍を殺すのは恐怖だ、と己は心得ているゆえに。

「さ、話は終わり。任務完了。」

「任務!?」

「そんじゃ、忙しいんで帰るわ。カラスのなり損ないさんっ。」

 手を振って影を巻いてこの場を後にする。

 長話しちゃったかなぁ

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