第61話 なり損ない
「あの、本当にありがとうございます。弟も、俺も、手を掛けさせてしまって…。」
丁寧にそう言うのはお兄さんの方だろう。
振り向かずにそれだけ聞き取った。
「何か、手伝えることがありますか?お礼に、何か…。」
「あのさぁ、ご丁寧なのは立派だけど、悪いけどリャトみたいにタメ口で喋ってくんないかな?苦手なんだよね。」
「そう…なのか?」
「こっちは人間様に仕える道具だかんね。そういうの慣れてないんだわ。」
「道……具?」
カチカチと機械のボタンに指を乗せて操作する。
おっ、これはいい情報なんじゃない?
早速開いて目を通しておく。
「道具…なんかじゃない」
「ご立派ですね。そういうお人も中には確かに居ましたが、綺麗事ってやつかな。」
「お前も、俺たちも、道具なんかじゃない!人なんだ!」
「あんたら…もしかして、こっちの道に足を突っ込んだことがあるの?」
あまりにも
「俺たちはカラスとして育てられたんだ。」
「からす?」
「知らないのか?お前、カラスじゃないのか?」
「いんや、からすって奴は知らないし、そういう存在でもない。」
二人から聞いた話は、よく忍に似ていた。
ただ、言うとカラスってやつのがまだ甘いってことはよくわかる。
忍みたいに誰にでも雇われるようなモンじゃないけど、カラスは必ず集団で事にあたる特別部隊らしい。
最低でも二人で行動するのが当たり前で、世の裏側で暗躍するタイプ。
ただ、カラスもまた、道具だってことだ。
一対一で戦うことには劣るが、集団での戦いには長けているらしいが、その
忍は、種類もあるし単独、集団どちらでも臨機応変に対応出来る。
「へぇ。で、そんなカラスさんがなーんでまたこんなとこに?」
「逃げて来たんだ。道具じゃなくて、人として、生きたくて。」
「あれ、前にもんなこと言ってるお馬鹿さんが居たような……?」
「だから、逃げて逃げて逃げて、そんで死にかけた。」
「何があったんだよってツッコミたいけど凄い想像出来ちゃってしょうがないんだけど。」
「そこでアイツに拾われて、タダ働きしてて…。」
「俺が、もう嫌だっつったんだ。そしたら、ボッコボコにされて。」
「で、さっきに至る、と。とんだお馬鹿さんだね。」
殺すまで、怯えていたクセにこちとらを睨み付けやがる。
そういう顔出来るんだったら、カラスほどのあんたらなら、さっさと始末出来た相手なんじゃないの?
本当に呆れる。
「あー、おっかない、おっかない。」
「バカにするな!」
「集団でいなきゃ何も出来ないカラスにすらなり損なったあんたらが、今度は人間様の顔して何言ってんの?そういうの嫌いなんだけど。」
背丈は丁度お兄さんの方と己が同じくらいかな。
似てるってだけでこんなにもライバル意識持ってくる己が一番馬鹿らしい。
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